No.288
2005.3

宇宙科学を支えるテクノロジー

ISASニュース 2005.3 No.288 


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- No.288 目次
特集 第5回宇宙科学シンポジウム
- 宇宙科学ミッションの新しい出発
- 特集によせて
- 将来計画
- 宇宙科学を支えるテクノロジー
- JAXA長期ビジョンと宇宙科学
- 編集後記

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耐宇宙環境性に優れた
宇宙用熱制御材料の研究開発


 多くの人工衛星が金色に見えるのは,多層断熱材(フィルムを積層した断熱材)の最外層に,アルミニウムを蒸着した黄色〜褐色のポリイミドフィルムを使用しているためです。この最外層のフィルムは,過酷な宇宙環境に直接曝露されるため,高い耐宇宙環境性が要求されます。  紫外線,放射線,原子状酸素(その他,熱サイクル,真空など)は,材料,特に高分子材料を劣化させる要因になります。ポリイミドは宇宙環境に強く,高い耐熱性を持つ優れた宇宙用材料ですが,原子状酸素に対する耐性が低いため,その耐性向上を目的とした研究開発を行っています。

 原子状酸素とは,酸素分子が紫外線によって分解されたものであり,高い反応性を持っています。宇宙ステーションやスペースシャトル,地球を周回する観測衛星などは,地球の大気成分がまだ多く残っている低い軌道(高度数百km)を飛行するため,紫外線で分解された原子状酸素に衝突します。宇宙機の速度が秒速約8kmのため,原子状酸素との衝突もこの速さとなります。この衝突エネルギーと原子状酸素の持つ反応性が,材料に激しい侵食を与える原因です。

 原子状酸素は衝突する材料を侵食するため,材料表面を守ればよいことになります。そこでJAXAでは,原子状酸素に強い酸化物系セラミックス膜をポリイミドなどに付与した材料の開発を行っています。ステンレス鋼やアルミニウム合金の不動態被膜と同じ発想です。ところが,これらの膜は硬くもろいため,人工衛星の組立て時や打上げ時に,細かな割れを生じる問題があります。筑波宇宙センターにある真空複合環境試験装置を利用した研究の結果,原子状酸素保護膜に細かな割れがあると,割れより広い範囲で原子状酸素による侵食が発生することが分かりました。そこで現在は,変形に対して割れにくい密着性のよい膜や,地上では軟らかく宇宙環境で原子状酸素と反応することによって酸化膜を作るコーティングの研究を行っています。密着性を高めるために使用する材料やコーティングについては,紫外線や放射線による耐性が当然必要となるため,地上環境試験装置や宇宙ステーション外壁を使用した幅広い評価試験を実施しています。

 これらの研究成果によって開発される熱制御材料は,要求される特性(熱光学特性,機械的特性,電気伝導性など)をより長期間維持できるようになり,人工衛星などの宇宙機の長寿命化,高機能化を支えます。

(石澤淳一郎,宮崎英治,島村宏之[マテリアル・機構技術グループ/ISTA/JAXA]) 


  JAXA:宇宙航空研究開発機構
  ISTA:総合技術研究本部


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