小型衛星による
LTPおよび高速衝突発光現象観測の提案
本提案は,小型衛星を用いてLTP(Lunar Transient Phenomena)や高速衝突発光現象観測といった月ミッションの実現を検討するものです。
近年,搭載機器の小型化や高効率化により,小型の衛星でも新規性の高い観測ミッションが実現されています。現在のところ,その活動範囲は近地球に限られていますが,固体モータを搭載した150kg級衛星であれば相乗り打上げ方式による月軌道ミッションも可能である,との検討がなされています。
本提案で焦点を当てているLTP現象とは,月面が“もや”がかかったように光る現象です。理由としては,月地殻内部より噴出するガスによるもの,あるいは太陽風によって帯電したレゴリス※が舞い上がることによるなど,いくつかの仮説が示されています。現象の記録は古く,16世紀から500件以上の報告がなされていますが,これまで科学観測はほとんど行われてきませんでした。これは,現象の発生頻度が非常に低く,ミッションとして取り上げるにはリスクが高かったためです。
※ レゴリス:惑星表層を覆う砂のこと。
一方,高速衝突発光現象は,1999年11月にしし座流星体の月面衝突に伴うものが,2004年8月にはペルセウス座流星体によるものが初めて観測されました。それと同時に,地上実験により,秒速数kmの物体が衝突すると光とマイクロ波を出すことが知られていましたが,そのエネルギー分配則や衝突破壊メカニズムについて詳しい理解は得られていません。月面流星衝突現象では,地上で作り出せない衝突速度が期待できるので,破壊の物理や流星体に関する新しい知見が得られると考えられます。
LTPや月面高速衝突発光現象といった“低頻度な現象”は,ミッションとして高リスクゆえに積極的な観測は行われてきませんでした。しかし,一般的に小型衛星はコスト的リスクを低く抑えられることから,このような観測に適しているといえます。小型衛星は大型衛星では対象としないようなリスクの高い観測ミッションが実現できるほか,活動範囲を月軌道まで拡大させることによる利用の拡大など,小型衛星で月軌道ミッションを実現する意義は非常に大きいと考えています。
(斎藤靖之[東大院],高原卓也[総研大])
総研大:総合研究大学院大学