No.288
2005.3

将来計画

ISASニュース 2005.3 No.288 


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- No.288 目次
特集 第5回宇宙科学シンポジウム
- 宇宙科学ミッションの新しい出発
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- 将来計画
- 宇宙科学を支えるテクノロジー
- JAXA長期ビジョンと宇宙科学
- 編集後記

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太陽系外地球型惑星探査ミッションJTPF


 この広い宇宙で,私たち人類は特別な存在なのでしょうか? それとも,生命が育まれているような第2の地球は存在するのでしょうか? これは天文学者の興味のみならず,この『ISASニュース』を読まれる多くの方々が広く抱かれる疑問だと思います。太陽系外地球型惑星探査ミッション(JTPF)はこの問いに答えるために,第2の地球を直接に撮像し,そこに生命の有無を探ることを最重要目標とし,かつ,一般の天文観測にも広く応用できることを目指す野心的なミッションです。

 私たちの太陽系以外にも惑星(略して系外惑星と呼ぶ)が存在することが分かったのは,わずか10年ほど前です。その後,すでに約150個の系外惑星が発見されているのですが,これらはすべて間接的に観測された木星のような巨大惑星で,惑星(特に地球型のもの)を直接に画像に写した例はありません。従って,私たちの太陽系を遠方から眺めたような,恒星の周りの第2の地球を直接観測することに期待がかかります。

 系外惑星を直接に観測するためには,
(1)暗い惑星を検出するだけの高い感度,
(2)恒星のすぐ近くにある惑星を見分けるためのシャープな画像,
さらに
(3)暗い惑星が明るい恒星からの光に埋もれてしまわない高コントラスト
の三者が同時に必要になります。あたかも,明るく輝く灯台の近くでほのかに光る蛍を探すようなものです。

図 コロナグラフを応用した高コントラスト望遠鏡案。    
  口径約3.5mの軸外しの一枚鏡をH-IIAロケットのフェアリング 
  に収めて打ち上げる。                   

 このようなミッションの可能性の一つとして,JTPFワーキンググループでは現在,とりわけコロナグラフを応用したスペース望遠鏡を検討しています(図)。コロナグラフは,明るい太陽の外側に広がる淡い構造を皆既日食時以外でも観測するために開発された高コントラスト技術で,最近さまざまな新規アイデアが提案されています。また,惑星のスペクトルを調べると,地球の大気を特徴づける水や酸素の存在量が分かるので,その惑星に生命が存在するかどうか推定できると考えています。H-IIAロケットで打上げ可能な最大限の一枚鏡として口径3.5mから成る特殊望遠鏡を用い,鏡の小さな凸凹を化粧できる工夫(補償光学と呼ぶ)なども利用すると,惑星が存在すると考えられる領域で,恒星より10桁程度も暗い天体が観測できます。これによって,太陽近傍の数十個の恒星の周りに地球に似た惑星があるかどうかを調べることができるでしょう。コロナグラフ装置は恒星のすぐ近くだけを調べる装置ですが,その星から離れた天空の広い領域を観測できる装置を搭載すれば,初期宇宙天体などの研究も並行して行うことができます。

 地球型系外惑星検出は人類の共通の興味であり,国際的にも同様の検討が進んでいます。中でもNASAのTPF計画,ESAのDarwin計画は,すでに過去数年間にわたって検討が行われてきました。惑星探しの一番乗りも大事ですが,このように大きな計画では国際協力の可能性も追求してゆくべきであると考えています。

 JTPFは,これまで日本の宇宙科学研究にはなかった新しい研究分野を切り開こうとするもので,かなり長期の組織的な準備が必要な分野です。さらに,地上観測,理論研究も含めた検討が必要であるため,今後もISAS/JAXAという枠を越えて,国立天文台や大学などの国内諸機関の密接な協力のもとに,将来宇宙開発に携わりたいという若い方々の力を得て,進めるべきプロジェクトであると考えています。

(田村元秀[国立天文台]ほか,JTPFワーキンググループ) 


  JAXA:宇宙航空研究開発機構
  ISAS:宇宙科学研究本部


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