No.285
2004.12

ISASニュース 2004.12 No.285

- Home page
- No.285 目次
- 宇宙科学最前線
- お知らせ
- ISAS事情
- 科学衛星秘話
- 宇宙の○人
- 東奔西走
+ いも焼酎
- 宇宙・夢・人
- 編集後記

- BackNumber

宇宙政策研究者の孤独 

筑波大学大学院人文社会科学研究科 鈴 木 一 人 


宇宙開発を国際政治学から見る

 最初に断っておかなければならないが,私は国際政治学者という宇宙開発の世界では一風変わった専門でやっている。これまで宇宙開発は,政治学者にとってあまりに技術的かつ複雑な世界であり,とうてい文系の人間には太刀打ちできないものと考えられてきた。しかし,実際のところ,宇宙開発はとても政治的な事業であり,紛れもなく政治学のテーマになり得るものである。宇宙開発のそもそもの始まりには軍事的な目的もあったし,宇宙開発が飛躍的に発展したのも,冷戦という状況があったからである。とはいえ,我が国では原則として軍事的なツールとしての宇宙開発を行わず,外交戦略の一環としての宇宙開発という位置付けもなされてこなかった。それ故,宇宙開発に関心を持つ政治学者はほとんどおらず,独り寂しく研究にいそしむ結果となっている。

 ただ,あえて言うならば,欧米諸国においても学問として宇宙開発を国際政治や政治学の観点からとらえている人は意外と少ない。日本でも有名なジョージ・ワシントン大学のジョン・ログスドン教授も,元はといえば物理の専攻であり,いろんな経緯を経て宇宙政策分析にかかわることになった人である。純粋に政治学の訓練を受けて宇宙開発をやっている学者は,かなり少ないのが現状である。


宇宙政策研究者の今

 同じ研究分野の人がいないというのは,良い面と悪い面がある。良い面は,どんなに若く実績が少なくとも,宇宙開発の世界では政治学での第一人者と認めてもらえることである。ある意味では珍獣に似た扱いになるのだが,ほかの人とは異なる視点を提供することとなり,重宝されることが多くなる。

 悪い面はいくつかあるのだが,第一に本業の政治学の分野ではなかなか理解されないということである。政治学から見れば宇宙開発は貿易問題のごく一部,安全保障のごく一部,財政政策のごく一部にすぎない。学会報告や論文を書くときも,なぜロケット開発が重要か,衛星はどんな役に立つのかというところから説明しなければならないもどかしさがある。

 第二に,研究が理解されないということは,研究仲間がいないということになる。政治学の世界はかなり分業がはっきりしており,テーマの類似性によって研究グループが形成される。私はもともとヨーロッパの宇宙開発を専門にしてきたので,ヨーロッパ研究というグループには属するが,そこで宇宙の話をしても理解されないため,いろいろと手を変え品を変え研究発表を行っている。

 第三に,その結果としてやたらに忙しくなるということがある。宇宙開発の分野からは政治学者としての意見を求められ,専門の政治学の分野では宇宙開発+αの仕事をしなければならなくなる。大学でも「国際政治経済学」「国際機構論」といった宇宙の話だけでは間が持たないような講義を担当しているため,広くイラク問題から郵政民営化の話までやらざるを得ないのが現状なのである。


宇宙政策研究者を育てよう

 こうした孤独を解消し,仕事の負担を減らすにはどうしたらよいか。それは宇宙政策の研究をする学生・院生を育てることである。宇宙開発のための教育・アウトリーチは大きな課題であるが,科学者を育てるだけでなく政治学者も並んで育っていかなければ,我が国における宇宙開発の前途は暗い。その意味で,この原稿を依頼されたのが的川先生からであり,国際宇宙大学(ISU)のシンポジウムの席であったということは意味深なものがある。当面,宇宙政策を勉強する院生は,私が独力で育てなければならないのかもしれない。だが将来的には,JAXAが進める教育プログラムの一環として,またISUなどの国際的な場で,そうした学生を育てていくことを,我が国における宇宙開発を進めていく上でも,私の仕事を楽にし孤独を解消する上でも,ぜひ進めてもらいたいものである。

(すずき・かずと) 


ゼミで行っている国際会議シミュレーションの様子。学生が各国大使になりきって,外交交渉を行うというシミュレーションであるが,残念ながらこのときはイラク復興に関する国連安全保障理事会での交渉がテーマであった。右端が筆者。

#
目次
#
宇宙・夢・人
#
Home page

ISASニュース No.285 (無断転載不可)