No.281
2004.8

ISASニュース 2004.8 No.281

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ハレー彗星探査機「すいせい」その1 

井 上 浩 三 郎 


「すいせい」

 76年ぶりに太陽に接近してきたハレー彗星の探査を目的とする探査機PLANET-Aは,予定より2日遅れて1985年8月19日8時33分,小雨交じりの中,一瞬の晴れ間を見つけてM-3SIIロケット2号機によって打ち上げられました。非常にスリリングな打上げでした。ロケットの完ぺきな飛行によって予定された惑星間軌道に乗ったPLANET-Aは,「すいせい」と命名されました。

 NASAをはじめ,我が国の追跡局(勝浦,内之浦,臼田)も次々に第パスの電波を受信しました。受信したテレメトリデータから,「すいせい」の動作状態は正常で,スピン数2535rpm,太陽方向とスピン軸の成す角は89度であることが確認されました。そして,宇宙研で算出したハレー彗星への最接近日時は1986年3月8日22時(日本標準時)で,その核(彗星の本体)からの距離は21万kmでした。

 その後,国際的な協議機関であるIACG(Inter-Agency Consultative Group;ハレー探査関係機関連絡協議会)において,ハレー彗星のダストの広がりが従来考えられていたよりも小さいことが示され,太陽風観測装置にとっても核に近いほどより良い結果が得られることが予想されるため,11月14日にハレー彗星に近づける軌道修正を行いました。その結果,ハレー彗星との最接近距離は14.5万kmとなりました。


探査機「すいせい」の概要

図1 真空紫外撮像装置(UVI)

 「すいせい」には2個の観測装置が搭載されました。一つは真空紫外撮像装置(UVI)で,水素ライマンアルファ線(波長1216=jという紫外線によってハレー彗星の水素コマを撮像します。もう一つは太陽風観測器(ESP)で,太陽風中の荷電粒子(イオンと電子)を観測します。

図2 太陽風観測器(ESP)

 彗星の核は,太陽系始原物質から成る微粒子(ダスト)と氷で形成された直径数kmの塊と考えられています。これが太陽に近づくにつれ,氷が昇華し,ダストも引きずりだされます。それらは核のまわりに巨大な臨時の大気(コマ)を形成します。

 ハレー彗星の軌道上の各点でこの水素コマを撮像することにより,コマの生成・消滅の機構を解明しようというのが,UVIの観測目的です。一方ESPは,太陽風と彗星の電離大気との相互作用の研究を行うもので,相互作用によって形成される衝撃波面の存在などを解明しようとするものです。


打上げ後の運用

 惑星間軌道に乗った「すいせい」の動作は極めて正常で,各内部機器の温度もほぼ予想通りの値を示しました。打上げ後,14時45分には主管制権を駒場および臼田局に移した後,40日間にわたりレンジング,自動太陽捕捉,スピン制御,軌道決定,姿勢決定,スラスタのチェック/較正,準黄道面垂直,スピン調整,デスパン制御チェック,そして観測機器(UVI,ESP)のチェックと高圧電源投入チェックなど,一連の作業を成功裏に実施しました。そして,紫外線撮像と太陽風の観測を行いながら,ハレー彗星に向け惑星間空間を飛行していったわけです。


国際協力

図3 各国の探査機がハレー彗星に接近し,さまざまな観測を行いました。

 数々の思い出を作ったこのミッションは,国際協力の点でも新しい進歩がありました。

 先述したIACGもその一つです。1986年3月10日に,ハレー彗星が黄道面を通過(降交点通過)しましたが,この日の前後に「さきがけ」,「すいせい」,ヨーロッパのジオット,ソ連のヴェガとヴェガ,アメリカのアイスというつの探査機がハレー彗星に接近し,さまざまな観測を行いました。

 これらの観測結果はIACGを通じて各国に通報され,共同研究の成果を上げるために貢献しました。次号では,その中から生まれた観測の結果と,さまざまなエピソードを紹介しましょう。

(いのうえ・こうざぶろう) 


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