No.280 |
ISASニュース 2004.7 No.280 |
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ロケット実験発射管制今昔
宇宙基幹システム本部 統合追跡ネットワーク技術部
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内之浦宇宙空間観測所のコントロールセンターにて |
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「動作チェックに入ります。外部電源ONです。CI(Control Instruments),PI(Payload Instruments),ONします」
指令電話と放送でアナウンスする。すると指令電話からテレメーター班のH.M.の声で
「下村さん,いっとっ,まっおいやいな,受信機が,ちっと,おかしがな」
「よう,あと,どいぐらい,かかいごっあいけ」
「下村さん,なおったど」
「よかったい,ほんなあONすっでね」
横で実験主任のH.K.教授が
「下村,日本語を話せ」
指令電話の相手が内之浦の同僚であると,つい鹿児島弁が出てしまう。気を取り直して
「CI,PI ONです」。
レーダー班のT.N.から
「トラポン異常なし」
H.M.からは
「テレメーター,PI異常なし」
ここまで作業が進んでくると,後はコネクタ離脱,ケーブル巻き上げである。ランチャー担当はこれまた生粋の内之浦人I.M.である。
「ゆあっがあがらんで,ちっとXを,のばせっくれんや」
「どいぐらい,かかいごっあいや」
「あ,もよかんべ,なっとお」
「ほんなあ,こんまま,いっでな」
やはり,横でH.K.教授が,けげんそうな顔で笑っている。
「先生,異常ないですから,このまま進めます」
「コネクタ離脱巻き上げ良好です。発射準備完了です。コントローラー,スタートします。3−2−1−0」
「発射OK」
カウントのアナウンスを続行しながらH.M.に
「どげんけ」
と聞くと,H.M.が即座に
「ねっかい,よかごっあっど」
これで100点満点の成功である。
8月の暑い盛りの釣りである。空は雲一つない日本晴れ,のどの渇きが早い。
「アーアこんな天気の日に魚釣りなんて」
と思いつつ,持参した飲料水はすべて飲み干してしまった。その年メーカー入社のKに,体育会系の乗りで
「50mぐらいの所に水が出ているからくんでこい」
「はい分かりました」
5〜6人がのどの渇きを癒(いや)すのである。水はすぐなくなり,なくなるたびにKが呼ばれる。それも3回までが限度だったらしく,4回目ともなると顔を真っ赤にして怒り
「これが最後ですよ」
と言いつつ,にんまりと笑顔を浮かべ皆と少し距離を置いて釣りを始めた。
のどの渇きはどうしようもなく,一気に飲み込んで,つい容器の中をのぞき込んでしまった。ボウフラが泳いでいる。「あの野郎」と思いつつ
「M.Y.さん,水が来ましたよ」
M.Y.さんは,恵まれた体格と人一倍の汗かきである。あれよあれよという間に容器の水を飲み干してしまった。めでたく,こき使われた一人を除いて,全員ボウフラ水を飲まされたのである。新人でも限度を超えてこき使ってはいけないという教訓を得たのであった。
M-V型になって,発射管制の仕事は薩摩隼人の血を引くM君に引き継がれ,ロケットの大型化,職場環境の変化でより緻密に管制作業を行っている。
がんばれ,薩摩隼人。
(しもむら・かずたか)
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