No.278
2004.5

ISASニュース 2004.5 No.278

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ゴダード実験記 

宇宙科学共通基礎研究系 坂 尾 太 郎  


SOLAR-BのX線望遠鏡,ゴダードへ

 太陽観測衛星SOLAR-Bに搭載するX線望遠鏡の環境試験に参加するため,ワシントンDCの郊外,メリーランド州にあるNASAのゴダード宇宙飛行センターに,昨年の秋から年末まで出張していました。

 SOLAR-BX線望遠鏡は,「ようこう」に搭載された軟X線望遠鏡SXTと同じく斜入射光学系の望遠鏡ですが,全長はSXT2倍3m弱と大型になっています。宇宙科学研究本部と国立天文台,そしてボストン近郊にあるスミソニアン天文台(SAO)による日米共同で開発が進められており,NASAのマーシャル宇宙飛行センターが米国側プロジェクト管理の任に当たっています。昨年秋,SAOにて日本側が開発した焦点面CCDカメラのフライト品を米国側担当の鏡筒に結合した後,望遠鏡全体の環境試験に進みました。しかし,SAOには自前の環境試験設備がないため,ボストンからはるばるメリーランド州まで運んでの試験となったわけです。


ゴダードの環境試験棟事情

 ご存知の方も多いと思いますが,ゴダードは周囲を林や牧草地に囲まれた研究所で,広々とした敷地の中に建物が点在し,シカやカモもあたりを闊歩(かっぽ)しています。車でないと,来所も構内の移動もままなりません。我々も,レンタカーを使ったり,SAO参加者の車に便乗させてもらうことで,移動の足を確保していました。周囲にバスも走っているのですが,時間がまるで当てにできないらしく,「朝出発して,午前中に到着できればいいのなら使える」と聞いたこともあり,お勧めではありません。

 今回の試験では,敷地の奥にある環境試験棟に連日通いました。この環境試験棟は,後から建て増ししていったのでしょう。複数の建物が棟続きでつながった複雑な造りをしていて,初めのころはどこから入ればいいのか,中に入ったら入ったでどう進めばいいのか,まるで分かりません。ドア一つの小さな入り口があちこちにあり,その中のいくつかはタバコを吸う人たちが屋外に出て一服するのに愛用されています。ドアは一度閉まると外からは開かないようロックされてしまうので,よく小石や木片が挟まっており,警備員が見つけると取り除いているようです。


試験ストップも

 さて,X線望遠鏡は環境試験棟に搬入された後,まずクリーンブースの中に設置され,そこを拠点として機械環境試験(音響・振動・低周波衝撃)と熱真空試験に供されました。どの試験設備へも,一つの建物(建て増しされているが)内の広々としたフロアを通って望遠鏡をそのまま運べて便利です。日本側のカメラを触るにも,フライト品ではNASAの認定を得なければならぬということで,静電気講習・クリーンルーム講習を受けさせられました。試験中にはさまざまなトラブルが起き(実は現在も熱真空試験のトラブルで試験が中断している……),また試験実施に当たってゴダードとマーシャルとが大げんかをしてしまい,試験が10日間ストップしたこともあり,なかなか大変です。

 我々のクリーンブース以外にも,近くにいくつかブースがあり,さまざまな衛星プログラムが入れ替わり立ち替わりで使っています。すぐ隣のクリーンブースではハッブル宇宙望遠鏡の姿勢系機器の試験を行っていましたが,大統領の宇宙政策発表と何か関係があるのでしょうか,今年になって訪問したときにはもぬけの殻となっていました。また別のブースでは,ガンマ線バーストを調べるSwift(スウィフト)衛星のBAT観測装置の試験が,24時間体制で懸命に続けられていました。建物の奥にあるクリーンルームには衛星本体が,明らかにBATが取り付けられるのを待っているという体で保管されており,掲示されていたBATチームのパーティーの案内には「“Should Have Been IntegratedHappy Hourへご招待」とありましたが,我々の試験状況を振り返るとまったく笑えません。

 昨年末の最終日には,ちょうど米政府の対テロ警戒レベルが平時より1ランク高い「オレンジ」に上がり,その途端「構内の外国人ビジターは直ちに退去せよ」というお達しが出て,急ぎ荷物をまとめた上に職員のエスコート付きで,慌ただしくゴダードを去りました。

(さかお・たろう) 

環境試験棟の熱真空チェンバー。
こういうチェンバーがずらりと並んでいる。


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