No.275
2004.2

ISASニュース 2004.2 No.275

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日本食は変だよ 〜インドから見た日本〜 

赤外・サブミリ波天文学研究系 中 川 貴 雄  


日本では食事に苦労する

「日本食は変だよ」
「どうして?」
「だって,味が変だよ。インパクトがないじゃない。食事って,マサラ(香辛料)を楽しむものだよ。いろいろなマサラが入っていて,インパクトがあって,ホット(辛い)だからこそ,食事はおいしいんだよ。それなのに,日本食は味がぼんやりしていて,まったくホットじゃないじゃない」
「いや,辛けりゃいいってもんじゃないと思うけど」

 インドとの共同研究が始まってからすでに数年がたちました。その間,ほぼ毎年のようにインドを訪問しています。そのため,インドチームともお互いに気心が知れてきました。特にインドチームのS君は,私たち日本チームが持ち込んだ検出器の準備に,日本チームと一緒になって取り組んでいてくれるせいもあり,ずいぶんと親しくなりました。そのため,お互いに言いたいことを言い合うようになっています。

「その上にさ,日本では調理の仕方が変じゃない。魚を料理しないで生のまま食べたり,豆をわざわざ腐らせて食べたり,信じられないね。よくおなかを壊さないね」
「日本料理を食べたって,おなかなんか壊さないよ」
「本当かなぁ。その上にね,Vegetarian(菜食主義者)とNon-vege(非菜食主義者,すなわち肉も食べる人たち)の区別が日本にはないじゃない。インドじゃ,ほら,レストランでもメニューでも,ちゃんとその区別が明記してあるでしょ。だから便利じゃない。食事の注文がやりやすい。ところが,日本じゃVegetarianNon-vegeの区別がされていないから,食事の注文のしようがないじゃない。注文しても,本当に食べられるものが出てくるかどうか,現物が出てくるまで戦々恐々なんだよ」
「いや,まぁ,そうだろうねぇ」
「だから,われわれインド人が日本に行くのは大変なんだ。まず,食事で苦労するからね」

 インドの人たちは無類の議論好きです。私たちの胃がインド料理の連日のマサラ攻撃に悲鳴を上げているというのに,S君はインド料理の優位さを,とうとうと語ってくれます。


日本では物価が高い

「日本では,何もかも物価が高いのにも閉口するね」とS君
「まぁ,そうだねぇ」
「例えば,日本ではタクシーに乗ると恐ろしく高価だし,それにタクシーしかないじゃない。インドを見てごらんよ。もちろんタクシーもあって,タクシーに乗るのはそれなりにお金がかかるけれど,それ以外にも,サイクル・リキシャーやオート・リキシャーがあって,もっと安く手軽に移動することができるじゃない」

 リキシャーというのは,インドの安くて簡便なタクシーのようなものです。日本語の人力車(じん・りきしゃ)が語源です。しかし,人力車そのものは目にしたことがありません。人の代わりに自転車が車を引っ張っていれば「サイクル・リキシャー」ですし,エンジンが付いた小型の三輪車になると「オート・リキシャー」というわけです。

 リキシャーは町中,どこでも見掛けますし,道を歩いているとオート・リキシャー屋さんから頻繁に声を掛けられます。確かに,「便利」で「安い」乗り物です。もっとも,乗り心地は値段相応ですが。


日本にも良いところはある

「ただしね。あの鉄道の運転の規則正しさには舌を巻いたね」とまたS君
「東京で電車を待っていたら,数分置きに電車がやってきて,それがほとんど30秒もずれないで運転されているじゃない。驚いたね」
「まぁ,5分も電車が遅れたら,みんな文句を言い始めるからね」
「はは。せちがらいね。それじゃ,インドでは鉄道には乗れないよ」

 確かに,その通りです。鉄道に限らずインドで「時間通り」に物事を進めようとすると,いろいろなところで衝突をして,余計な神経をすり減らします。インドにはインドの,日本には日本の,それぞれ個有の時間の流れ方があるようです。
「このせちがらさが,日本の経済を支えているのかなぁ」

 S君も日本の良いところに気が付いてくれたようです。
「でも,あの日本の料理だけは,なんとかしてくれないかなぁ。マサラを入れるともっとおいしくなるのに」

 この点だけは,いつまでも合意には至れませんでした。

(なかがわ・たかお) 

タタ基礎科学研究所・大気球実験場。
草を食みながら,牛たちが放球場を通りすぎていく。


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