No.274
2004.1

宇宙工学の目指すもの

ISASニュース 2004.1 No.274 


- Home page
- No.274 目次
- 新年のごあいさつ
特集:日本の宇宙科学の近未来
- 特集にあたって
- 理学と工学のスクラムで
- ミッション計画
- これまでの成果
- これまでのミッション
- 進行中のミッション
- 宇宙理学の目指すもの
- 極限状態の物理を探る
- 宇宙の構造と成り立ちを探る
- 太陽系の環境を知る
- 太陽系形成の歴史を探る
+ 宇宙工学の目指すもの
- 「はやぶさ」は今
- まとめにかえて
- 編集後記

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ソーラー電力セイルによる工学実証機構想

 宇宙研の宇宙工学委員会は,2001年度にソーラーセイル・ワーキンググループを発足させ,以来3年間にわたって大型膜構造物であるソーラーセイルによる将来の宇宙機,とりわけ惑星探査機に関する実証方法の検討を行ってきました。

 ソーラーセイルとは,太陽光を反射することで推進力を得て航行する宇宙船を指していて,通常は光子(フォトン)を反射するセイルを意味します。この考え方の歴史は非常に古く,数十年にわたって,この方式の大型の宇宙船を惑星間で行き来させる方法が考えられてきました。にもかかわらず,それが実現できなかったのは,非常に軽量で宇宙環境に耐性のある膜材の製造ができなかったことや,セイルの展張方法ないし操舵の方法で現実的な答えが見いだせなかったためです。しかし,この数年の間に,ポリイミド薄膜の連続製造が可能になり,また応用先を惑星探査専用に絞り,スピンによって展張させる型のセイル宇宙船の考え方が登場してきたことから,宇宙船として製作することに技術的な妥当性が見いだされるようになり,このワーキンググループが立ち上げられたわけです。

 ワーキンググループでも,当初はこの光子セイルを基本案として検討を開始し,2001年度にはこの光子セイルによる実証計画を立案しました。しかし,将来の探査機の推進方式をあらためて展望してみると,今後の原子炉を用いるような大電力の宇宙船の時代への適切な接続を考えた場合,純光子推進による宇宙航行は,将来は極めて小型の宇宙船に限定的に残る形態にすぎないとの結論に至りました。一方で,工学試験衛星「はやぶさ」のようなイオンエンジン駆動の惑星探査機を考えた場合,太陽電池を動力源としたときには,必要とする推力を得るだけの電力を必ずしも充足できるとは限らないという事情もあり,高比推力イオンエンジンと光子推進を併用するハイブリッドのセイルが適切で,実証探査機案とするのが適当であるとの結論に至ったわけです。

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 ソーラーセイル・ワーキンググループの描く探査機の概要は,図1に示すようにコア部分にイオンエンジンを搭載したステータ部を持ち,周囲に直径50m規模のセイルをスピン展張させる回転ドラムを配した構成になっています。実証探査機は,セイル面の一部に薄膜の太陽電池を採用し,その電力を使って従来よりはるかに優れた「燃費」の新しいイオンエンジンを駆動して推進する,新型の宇宙船です。ワーキンググループでは,この探査機をわが国初の「外惑星探査」の実証に用い,日本の宇宙科学研究に新しい時代をもたらすことを目標にしています。

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 このために,最大の特徴である大型の膜構造物を展開・展張する技術を確立することを目的に,地上試験を2002年度2003年度と積み重ねてきています。有力な展開機構の概念の一例を図2に掲げますが,すでにいくつかの展開機構の検討が進んでいて,2003年度夏には三陸大気球観測所にて直径4mのセイルを無重量,希薄大気中で展開させる実験にも成功しました(図3)。2004年度には,S-310ロケット34号機によって,高度200km近い高空で無重量環境の下,2種類のセイルを展開させる実験を行う計画です。

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図3:大気球による展開実験


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