No.274
2004.1

極限状態の物理を探る

ISASニュース 2004.1 No.274 


- Home page
- No.274 目次
- 新年のごあいさつ
特集:日本の宇宙科学の近未来
- 特集にあたって
- 理学と工学のスクラムで
- ミッション計画
- これまでの成果
- これまでのミッション
- 進行中のミッション
- 宇宙理学の目指すもの
+ 極限状態の物理を探る
- 宇宙の構造と成り立ちを探る
- 太陽系の環境を知る
- 太陽系形成の歴史を探る
- 宇宙工学の目指すもの
- 「はやぶさ」は今
- まとめにかえて
- 編集後記

- BackNumber

次期電波天文衛星 VSOP-2

 スペースVLBI。これは,宇宙の電波望遠鏡と地球上の電波望遠鏡とを結んで,地球よりも大きな電波望遠鏡を合成して観測することです。日本は世界に先駆け,1997年に宇宙の電波望遠鏡として「はるか」を打ち上げました。「はるか」はそろそろ7歳。人間だったらもう小学校入学の年になりました。国立天文台やNASA/JPLや世界の電波天文コミュニティとよく協力して,連日の観測を続け,多大な成果を挙げてきました。このプロジェクトは世界でVSOP計画として,電波天文学の歴史を作りました。

 このような複雑な観測システムを作ってきたのは,大変不思議で興味深い天体現象があったからです。電波天文学が始まり,電波銀河,クェーサーなどが見つかりましたが,その膨大なエネルギーは簡単には説明できませんでした。電波望遠鏡が進化するに従って,銀河の中心から突き抜ける激しいジェット現象,そして,そのまさに銀河の中心でのジェット発生領域が見えてきました。電波望遠鏡の高い解像度への進化は,この現象への肉迫とともにあったといっていいでしょう。ジェット現象は今,銀河の中心の大質量ブラックホールへ落ち込むエネルギーの一部がこのような現象に転換されて見えているのだと理解されています。これには,電波,光,X線,ガンマ線領域の観測が動員されています。また,ほとんどの銀河の中心には超巨大ブラックホールがあるらしいことも分かってきました。ジェット現象は,銀河の生成と関係する全天文学の大事な問題になっています。

VSOP-2-z1
VSOP計画が描き出した銀河からのジェット

 スペースVLBIは,他のどんな観測装置も及ばない解像度での撮像を可能とします。「はるか」とVSOP計画の成功の経験を受けて,私たちは科学的成果を追求した次期スペースVLBI計画を提案しています。この計画は,とりあえずVSOP-2と呼んでいます。VSOP-2衛星は口径9mの展開アンテナを積み,ミリ波(波長7mm)までを観測領域に入れています。これは,ブラックホール周辺のプラズマを通して観測ができ,高い観測分解能を与えてくれます。

 VSOP-2の最高分解能は,前人未到の10万分の3秒角です。例えば,M87という,中心ですごいエネルギーをジェットとして発生している天体があります。M87の中心にあるブラックホールの重さは太陽のほぼ32億倍,ブラックホールの大きさ(シュワルツシルト半径の2倍)は太陽系に匹敵するものです。VSOP-2の分解能は,このブラックホールを見込む角の4倍です。私たちは,ブラックホール周辺で,重力エネルギーが電磁波に変換されて出てくるさまを,本当にイメージとして見ることができるのです。ここでは一般相対性理論を使った磁気流体力学が大事な役割を果たし,観測と理論は,私たちをエキゾチックでわくわくする世界に引き入れます。

VSOP-2-z2
軌道上のVSOP-2衛星

 VSOP-2では,現在のVSOP計画よりも10倍以上の高感度化を狙っています。これにより,銀河核の現象だけでなく,銀河内マイクロクェーサー,原始星のフレアをはじめ,多岐にわたる高エネルギー現象にも私たちをいざなうことになるでしょう。


高エネルギー天文学の将来計画 >> 次期電波天文衛星 

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