No.263
2003.2

ISASニュース 2003.2 No.263

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インド再び

八 田 博 志  

 今回のインド訪問は学術振興会の海外交流事業の一つである第回日・印先進複合材料生産科学セミナーに出席するためであった。このセミナーは毎年日本とインドで交互に開かれ,今回は12月の第一週にインドで開催された。小生のインド行きも4回を数え,会議自体は少々マンネリ化してきているが,インドは行くたびに違った姿を見せてくれ,今回も驚きの連続であった。

 セミナーの開催場所は,デリーの北約200km,ヒマラヤ山脈の麓のMussoorieという町であった。ここはイギリス統治時代に夏の避暑地として開かれたところで,海抜2,000m程の山の上にある。景観はすばらしく,南側にはヒンドスタン平原が広がり,少し小高い丘の上からは北側に40km程離れたヒマラヤ山脈の高峰が眺望できる。このあたりには,聖なる川とあがめられているガンジス川の源流があり,観光案内によればインドのヒンズー教やシーク教等の神々を祭る聖地が散在する。それら聖地には,夏になると沢山の巡礼者が登ってくるとのことであるが,我々が行ったのは初冬でもあり,観光客の数はまばらであった。

 セミナーの間に骨休みにと小バス旅行が企画された。バスは巡礼者の道の一つを辿り山奥に向かった。1,000mにも達する深い谷の急峻な斜面に作られ,路肩も固められていない細い道をバスは疾走した。対向車とのすれ違い時には,谷底に落ちはしないかと手に汗を握り,日本人参加者からはこんな所にくるのであればもう参加はごめん被るとの苦情も発せられた。到着したのは森林公園で,ヒマラヤ山脈が間近に見える絶景の場所であった。

 隣接して小学校があった。小学校といっても20〜30m2程の土間の教室一つしかなく,40人ほどの生徒が3グループに分かれて授業を行っていた。学校があるのは標高3,000mの峠にある小さな町で,辺りを見回すと斜面を利用して段々畑が遙か谷底まで作られている。民家は畑の間に散在しており,眼下に広がる斜面を5マイル以上も徒歩で通っている生徒もいるとのことである。制服を着た小学生たちは赤い頬をしており,二本線の鼻を垂らしている子もいる。北部インド人は目が大きく彫りが深いためか,驚くほど聡明そうに見える子もいる。我々のデジカメの映像を物珍しそうにのぞき込む目は輝いていて,死んだ目をした大学生に授業をしている身にとってはことさらかわいく見える。

 朝早く町中を散歩すると,小学校の低学年くらいの子供が大きなバケツを持って路地に設けられた井戸に水くみに次々と現れ水を満たして帰って行く。家の掃除や農作業の手伝いも忙しく,学校は友達と遊べる楽しみの場になのであろうか。日本人には昔懐かしい風景であった。

 最初にインドを訪れたのは1994年である。そのときには首都のデリーでも道路端にテントが並びそこで寝泊まりしている人をたくさん見た。訪れるたびに,テント生活者は減り,町をうろつく牛の数も減って経済的には豊かになっているのが実感される。一方相変わらずなのは多量のゴミである。特殊な場所を除き人の集まる場所はゴミに覆われている。今はまだ人々がものを多く持たない生活をしているのでこの程度で収まっているが,今後ものが増えたらどうなるのか人ごとながら心配である。インドというと我々訪問者にとって水などの衛生状態が問題にされるが,その解決の第一歩はゴミ処理なのかもしれない。

 自動車の運転のすごさは相変わらずある。ひっきりなしにクラクションが鳴り,一車線の道路でも常に追い越しを狙って対抗車線側に半分身を乗り出して運転している。自分の車線に引っ込むのは対向車が来たときそれもすれ違いのほんの一瞬である。一級国道でも牛車が荷物(今回の場合はサトウキビ)を満載してゆっくり走るため,牛車を追い越すのは必然であるが,自分より遅い車は追い抜こうとする。追い越す車は必ずクラクションをならす。町中に入れば,道端に露天が並び人も多く交通渋滞がしょっちゅうおきる。そのときにもクラクションが一斉にならされる。外を出歩けば,店では買わないかとの声がかかり,道行くオートリキシャからも乗れとの声がかかる。人・車の喧噪で慣れない身には疲れることこの上ない。

 ワークショップでは発表を終えると質問の声がそこかしこからあがる。日本の講演会のように質問がなく司会者が渋々質問を考えるということはまず不要である。私共の研究室でも学生の多くは卒業旅行とやらで海外旅行に出かける。行く先の多くは欧米である。そんなとき筆者は「インドにでも行って人生を考え直しては?」と勧めるのであるが,実行した学生は一人もいない。

(はった・ひろし) 


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浩三郎の科学衛星秘話
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