No.262
2003.1

第4章 「ようこう」の科学成果

ISASニュース 2003.1 No.262 


- Home page
- No.262 目次
- 新年の御挨拶
- ISAS事情
- 特集にあたって
- 第1章 はじめに
- 第2章 「ひのとり」から「ようこう」へ
- 第3章 「ようこう」の観測装置
+ 第4章 「ようこう」の科学成果
- 4.1 概観
- 4.2 硬X線で見た新しい太陽フレアの姿
- 4.3 フレアの磁気リコネクションモデル
- 4.4 フレアに伴うX線プラズモイド噴出現象
- 4.5 S字マークは要注意
- 4.6 X線ジェット
- 4.7 活動的なコロナ
+ 4.8 コロナ加熱
- 4.9 コロナの観測から分かった磁気周期活動
- 第5章 国内の共同観測
- 5.1 太陽を波長10Åと波長108Å(=1cm)で見る
- 5.2 フレア望遠鏡との協力
- 5.3 飛騨天文台との協力観測
- 第6章 「ようこう」からSOLAR-Bへ:新しい挑戦
- 日本的発想と国際協力
- 水星の日面通過
- 太陽フレアと磁気圏サブストームの比較リコネクション学の発展
- 全世界への「ようこう」データの配信
- 「ようこう」と世界の科学者たち
- 日食観測は鬼門!
- 英語になったTOHBAN(当番)
- 「ようこう」関連の国際会議,成果出版物
- 「ようこう」関係受賞一覧

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4.8 コロナ加熱


 太陽では,6,000度の表面温度の上空に100万度以上に達するプラズマが広がっています。これはたとえて言えば,冷たい氷の上においたヤカンが沸騰しているようなものです。冷たいものから,熱いものへと熱自体を直接的に輸送することはできないので,何らかの方法でエネルギーを上層大気に注入し,そこで熱に変換する現象が起こっていることになります。冷たい太陽表面の上空に高温コロナが広がっている問題は「コロナ加熱」問題とよばれ,天文学上の大きな課題の一つです。

図4.22:「ようこう」SXTの太陽全面像



 高温のコロナはX線領域で明るく輝きます。図4.22に「ようこう」の軟X線望遠鏡で撮像したコロナの画像を示します。この図からわかるように,X線で観測するコロナは,非常に明るく輝く領域から,暗くて内部構造の見えない部分まで,さまざまな構造で満たされている事がわかります。明るく輝く部分は活動領域と呼ばれ,そこではフレアに代表されるような文字通り活動的な現象が見られます。さらに微細に見ると,コロナは多数の明るいループ構造からなることがわかります。活動領域は,太陽表面では黒点などの強い磁場の領域に対応しており,X線で輝くループは,太陽表面の磁場のS極N極を結ぶ磁力線であることがわかっています。このようにして,コロナを小さく分解してみていくと,磁気ループ(磁力線)がコロナを構成する単位要素であることがわかります。

 すなわち,コロナ加熱の問題とは,単位磁力線をどのようにして高温に保つのかという問題になるのです。このため,コロナ加熱を調べるためには個々のループの様子を詳細に調べる必要があります。コロナが磁気ループの集まりであること自体は,「ようこう」以前から知られていましたが,それまでのX線望遠鏡の性能ではコロナの構造はぼんやりとしか見えていませんでした。このぼんやりとしたデータをもとに,コロナ加熱とはコロナ全体を200万度に保つ機構であると考えられてきました。このコロナ加熱の描像は「ようこう」の観測により一変しました。


活動領域の温度構造

図4.23:ある活動領域における(上から)X線強度・温度・密度・圧力分布の
3日間での変化                            



 「ようこう」の軟X線望遠鏡は,複数のX線フィルターを交換しながら,高い空間分解能と時間分解能で観測を行います。こうして得たデータを組み合わせることで,コロナの温度を推定することできます。図4.23に,ある活動領域の3日間にわたる変化を示します。この図には,X線像の変化とともに,その温度の変化も示しています。X線の時間変化で見ると,明るさの変化とともに,ループ構造の変化が見て取れます。また,構造があまり変化しない成分もあります。構造が変化するものには,大きなフレアで見られるのと同じようなとんがり構造を示すものや,ループとループがぶつかりあっているように見えるものもあります。変化の少ない成分では,特に際立った個性のあるループは見当たらず,領域全体が発展をとげているように見えます。これらの成分の温度構造に目を向けると,300万度以上に達する構造は,短時間の変化を示す成分に相当し,時間的な変化を示さない領域の温度は,常に300万度以下であることがわかります。すなわち活動領域は,突発的に発生する高温成分と,定常的に存在する低温成分からなることが分かったのです。コロナの温度は,加熱の大きさを示すものと考えられますから,加熱の度合いが空間的に異なることを示しています。これは,「ようこう」によってもたらされた,コロナ加熱に関する重要な発見です。


コロナループ

 活動領域内部の高温に達する構造はその形態などから,フレアと同様の機構(磁気リコネクション)により加熱を受けていることが強く示唆されます。ところで,温度マップを見て分かるように,活動領域はどちらかといえば定常的な比較的低温(≦300万度)の成分が多くを占めていることが分かります。これらのループのプラズマとしての性質を詳細に調べると,定常的な熱入力が必要であることが分かりますが,この熱入力の正体はまだ明らかにされていません。ループ全体の構造を変化させるようなことのない微小なフレアの可能性や,ループ内部の温度分布からループ内部での加熱源を探る研究が,現在でも盛んに続けられています。

 ところで,「ようこう」の軟X線望遠鏡が観測する波長帯域(5〜50Å)は,200万度以上のプラズマからの放射で占められているために,高温のコロナ構造を観測するには適していますが,100万度程度の低温コロナの観測ができません。このために「ようこう」だけではコロナを構成する全ループを捉えきることはできません。そこで,極端紫外線望遠鏡(NASA/ESASOHO衛星と,宇宙研の観測ロケット)が観測する100万度程度のループと,「ようこう」の軟X線望遠鏡で観測されるループの関係を示したのが図4.24です。「ようこう」で観測される200万度以上の温度のループと,極端紫外線で観測される100万度程度のループは空間的に別々に存在し,さらにこれらの温度パターンが継続的な現象であることが分かりました。これは,各定常ループは100万度から300万度の温度になるように,局所的に異なる効率で加熱されていることを示唆しています。

図4.24:活動領域でのループの多温度構造。       
「ようこう」SXT,SOHO/EIT(284Å),XDT(211Å),   
SOHO/EIT(195Å),SOHO/EIT(171Å)で観測されたループを
2枚ずつ重ねた。高温側のループを赤,低温側を青,両者が重
なったところを緑色で示す。               



 こうして明らかにされたコロナループの熱入力の空間分布と,加熱源である太陽表面磁場の運動との直接的な関係が現在精力的に研究されています。

(永田 伸一,鹿野 良平) 


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4.9 コロナの観測から分かった磁気周期活動
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