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No.262 |
第1章 はじめにISASニュース 2003.1 No.262 |
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図1.1:M-3S II ロケットの3段目に載ったSOLAR-A 飛翔体を利用した宇宙空間からの観測が,研究に画期的な発展をもたらした例は多いが,太陽物理学はその典型的な例といえる。宇宙研では,1969年に福島県原町郊外から飛翔した大気球により太陽硬X線源の撮像観測に世界で初めて成功,フレアの形状,大きさを測定した。引き続き1981年に打ち上げた観測衛星「ひのとり」はスピン衛星の特徴を活かした回転すだれコリメータによる硬X線像,ブラッグ結晶による高分解スペクトル等の観測で宇宙空間からの本格的な太陽X線観測の道を拓いた。これらの経験と成果をもとに,太陽の高エネルギー現象を総合的に解明しようとするSOLAR-A(「ようこう」)衛星計画の検討が80年代の前半に始まった。 この計画の目的は,高性能の観測装置で地上観測ではできなかった太陽表面での高エネルギー現象を総合的に観測し,太陽フレアを中心とした太陽活動を解明することである。そのため世界の天体物理学者の叡智と技術を結集して最高の性能を持つ太陽観測天文台を宇宙空間に作るための作業が開始された。そして,計画の立案から始まり,搭載する観測装置の選定・設計・製作,衛星の運用,データの受信・取得と配布,データ解析・研究,研究成果にもとづく啓蒙活動にいたるすべての点で全面的に緊密な国際協力がとり入れられてきた。このことは今では珍しいことではないが,宇宙研の衛星としては初めてのことであったといえる。 「ようこう」のもう一つの特徴は,宇宙研の中にこの分野の中核となる研究者集団が無く,所外の研究機関(国立天文台他),研究グループの力を結集し,宇宙研がそれをまとめて衛星計画を遂行するという形をとったことである。これは共同利用研究所としての事業遂行の一つの重要な形態であるが,「ようこう」の後にも先にも無いことであった。 技術的には,初めての本格的画像データ取得のための大容量のデータ蓄積・伝送,高精度天体望遠鏡のための高精度・高安定度姿勢制御,世界初のX線CCDの搭載等々,多くの新規開発事項があったが,幸い宇宙工学グループ,関係メーカーのご協力により十分に所期の性能を実現することができた。 こうして,半年間の研究開発(概念設計)の後,4年半という短い開発期間で衛星は完成,当初からの予定通り1991年8月に打上げに成功した。さらに,衛星は予想寿命を遥かに超える10年以上にわたり,ほとんど故障無しに正常に機能し,太陽活動の1周期(極大期から次の極大期まで)連続観測ができたことは望外の成果であった。 今回「ようこう」特集号を作るにあたって,ここに改めて所内外の関係者のご協力・ご支援に深く感謝する次第である。 (小川原 嘉明) 図1.2:「ようこう」の10年(1991年〜2001年) |
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