No.259
2002.10

ISASニュース 2002.10 No.259

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プレゼンテーション方式の今昔

西 村 純  

 近頃の学会では,パソコンとプロジェクターを組み合わせたパワーポイントでの発表が大勢を占めるようになってきた。確かにこの方法は便利であるが,まだまだ改良の余地が多いように思われる。第一に持参すべきパソコンが意外に重い。プロジェクターとのつなぎに意外にもたつく。プロジェクターの光が弱かったり,計算機との相性が悪いと,細かいところがほとんど読みとれない。強調するために色分けがしてあるが,黒赤青以外の色ははっきり見えないことが多い。結果的に逆効果である。しかし,画面がきれいであり,差し替えが楽で,動画も入れられるので,今後ともその使用は増加して行くに違いない。

 私が大学を卒業したのは1948年のことである。当時,東京から名古屋の学会に行くのは,この頃,ヨーロッパの国際学会に行くより大変な事であった。プレゼンテーションは新聞紙大のビラに式や論旨を墨と赤インキで書込んだものである。最大の欠点は書くのが面倒であると同時に,乾くのに時間がかかることであった。亡くなられた早川(幸男,元名古屋大学長)先生と共同の研究を発表する前日に,計算したての結果を持って,先生が勤めておられた高円寺の気象研究所に駆け込む。先生は筆を片手に,大きな机の上に紙を広げて,墨汁と赤インキをおいて待っておられた。

 学会で,「次元空間の・・」という難しい題目で話される予定の著名なW先生が時刻になっても現れない。座長が調べにいって,「先生は今隣の部屋で清書中ですから,・・」と休憩時間に入った。休憩後,濡れたビラを片手に登壇された先生は「先ほどは一寸所用がありまして・・」と言われたので,会場は爆笑,事情を知らない先生は怪訝な顔をしておられた。

 「ビラ方式」が新たな展開を迎えるのはマジックインクの登場である。すぐ乾いて,その場で書き上げることが出来る。当時,私は入院していたが,友人がわざわざその便利さを話しに来てくれた位のものである。

 次は,10cm角くらいのガラスのスライド。スライドを直接見ながら議論が出来る利点があるが,重いのと作るのが大変なのが欠点である。私のいた原子核研究所の写真部では,頼まれた数多くのスライドを乾かすために実験室の机の上に広げてよく並べていた。

 次はおなじみの35mmのスライド。私の関係した宇宙線国際学会では1959年のモスコーではガラススライド,1961年の京都では35mmになっていた。京都の宇宙線国際会議は数百人が参加した大会議であったが,スライドは一度も左右,上下,裏表の入れ違いがなく,外国人が感心していた。今考えると,日本人のきっちりさに薄気味悪さを感じたのではないか

 製作はいつもぎりぎりになり,仲の良い写真屋さんに真夜中に持ち込んで,その場で作ってもらう。松下電器ではインスタントの35mmスライド製作器を売り出した。フイルムに赤外線が当たると小さな泡が出来て,即座にスライドが出来上がりである。欠点としては画質が写真のスライドに及ばないことであった。スライドプロジェクターも段々自動化して,自動焦点・自動送り・リモコンになってきたが,それにつれて複雑となり故障も多くなる。一旦故障すると手がつけられない。やはり単純なものが一番確実である。この辺は性能もさることながら,確実性が第一に要求される宇宙技術に対する教訓となるのではないか

 そして,やがておなじみのOHPの登場である。色つきのぺンで書けるし,プリントアウトでも作れる。今でも可成りの人が学会で使っている。欠点は整理しにくいのと,数が増えると意外に重くなることである。

 何よりも単純なところが気に入って,今暫くはこの方式のお世話になりたいと思っている。

(元宇宙科学研究所長 にしむら・じゅん) 


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