No.256
2002.7

ISASニュース 2002.7 No.256

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一つの国に世界が

中 村 良 治  

 第3回ダストプラズマ物理国際会議がナタ−ル大学の主催で,5月20日から24日まで,南アフリカのダ−バン市で開かれた。ナタ−ルとはクリスマスの意味であることは知っていたが,ヴァスコ・ダ・ガマが12月25日に当地に上陸したからだそうである。成田からシンガポールまで6時間,ここで乗り継ぎのため7時間待たされ,ヨハネスブルグまで10時間半,さらに国内線に乗り換えて1時間,やっとダーバンのルイボッタ国際空港に到着。浜辺に面したホリデ−インホテルが会場である。時差のため早く起きてしまい,部屋の窓から海を眺めると,まさに日の出の時刻で茜色の御来光を楽しんだ。

 2回目の会議は,宇宙研のスペ−スプラズマ専門委員会の主催で3年前5月に箱根で開催されている。この3年間でダストプラズマの研究はますます盛んになってきたようだ。ドイツのマックスプランク研究所は国際宇宙ステ−ションにダストプラズマ装置をのせて,無重力下で実験を行った。そして,地上の室内実験では重力のため二次元的な微粒子の結晶しか出来ないのに反して,三次元的な結晶構造を生成するのに成功した。また,プラズマの中にボイドと呼ばれる微粒子の存在しない領域が出来ることを発見した。また,米国コロラド大学のグル−プは,木星の磁気圏のト−ラスプラズマの成分はダスト粒子によって影響されていると報告した。南アフリカが日本や米国から遠いために参加者の数は,百名程と少なかったが,活発な討論と議論が行われ,ダストプラズマの今後の更なる発展が感じられた。

 南アフリカの面積は日本の3.3倍,人口は約3,400万人,気候は温暖で,ダ−バン市の夏の平均最高気温は,27度で冬のそれは22度である。前南アフリカ大統領マンデイラ氏はこの国を「虹の国」と呼んだ。また東京の南アフリカ大使館が発行しているパンフレットには,南アフリカ:「一つの国に世界がある」のキャッチフレ−ズが書いてある。まず海,サ−フィンの世界大会が開かれるということで浜辺では若者達がサ−フィンを練習していた。次に山。アフリカには,平らなサバンナばかりでキリマンジェロ山の他には,高山はないと思っていたら,ダ−バン市から100km程内陸に入るとドラケンスベルグと呼ばれる3000m以上の山脈があるのには驚いた。和菓子のようなプロテアの花がたくさん咲いていると言う。

 水曜日の午後に恒例の遠足があった。箱根での会議の時も水曜日の午後が遠足で,月,火曜日と雨続きでこれでは大涌谷からの富士の眺めはだめかと心配していたが,運良く晴れてくれて外国からの参加者に喜んでもらえた。その後,木,金曜日とまた雨になってしまい,参加者を会議場に閉じ込めることになった。

 ダーバン市から,50km程のタラ動物保護区にバスで出掛ける。到着するとトラックに分乗して動物見物。なだらかな丘のアカシア林と草原に縞馬,ダチョウ(オーストラリアの友人が,英語名がOstrichで,オーストラリアのダチョウはEmuと呼ぶと教えてくれた),白犀,インパラ,沼では河馬の群れが水面から目だけを出してこちらを見ていた。続いて保護区内のレストランで晩餐会が持たれた。やはり南アフリカ産のワインがおいしい。ワインは南のケープタウン地方で生産されている。また,色とりどりのきれいなビーズの首飾りをたくさんかけたズールー族の人たちが太鼓と踊りを披露してくれる。コーヒー畑は南アフリカにはないようで,その代わりに紅茶を生産している。

 ダーバン市にはインド系住民が多い。労働力のためにインドから移住してきた人々の子孫である。例えば,中華料理店に入ってみるとコックからボーイまでインド人で面食らってしまった。ガンジ−は南アフリカで始めた無抵抗主義の成功の後,インドに渡ったのである。勿論,黒人も多い。8年前に南アフリカはアパルトヘイト(黒人隔離政策)を廃止した。しかし,失業率は3割もある。そのためであろう,ヨハネスブルグは旅行者にとって非常に危険な町となっている。アパルトヘイトをやめて国は良くなったのかと白人に尋ねると,黒人にとっては良くなったが白人にとっては悪くなったと答えた。

 この国にはエイズ患者が多く,またアメリカで生産されるその治療薬が高いため国の大きな問題となっている。日本とは異なった問題をかかえている南アフリカ。ケ−プタウン,海,山,動物,ワイン,それ故,観光国を目指しているようだ。しかし,その遠さ故,旅行好きの日本人も訪れる人は少ない。

 ホテルの前の歩道にテントをだして,人形や動物の木彫,ガラスビ−ズなどを,赤ん坊に乳を含ませながら売っていた黒人の笑顔が何故か忘れられない旅でもあった。

(なかむら・よしはる) 


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