No.254
2002.5

ISASニュース 2002.5 No.254

- Home page
- No.254 目次
- 研究紹介
- お知らせ
- ISAS事情
- MUSES-C
+ 宇宙を探る
- 東奔西走
- 微小重力科学あれこれ
- いも焼酎

- BackNumber

第31回

ペネトレータによる熱流量観測センサーの開発

田 中 智  

 地球を含め惑星や衛星が生成しておよそ45億年が経過していますが,内部からは絶えず多量の熱が湧き上がっています。地球の場合を例にとると実に30億キロワットもの熱量が地表に流れ出しています。この多量の熱(地殻熱流量と呼んでいます)はこれまでの惑星や衛星の進化の結果もたらされたものですから異なった熱流量値をもつ惑星は別の進化の道筋をたどってきたといえるでしょう。つまり熱流量が正確に測定できると惑星を構成する物質や進化に関し大きな制約を与えることができます。私たちの研究室で開発している熱流量センサーは,月やその他の惑星や衛星の熱流量を直接観測することを目指しているものです。

 熱流量は熱伝導率(熱の伝わりやすさ)と温度勾配をそれぞれ計測することによって得られるものです。これまで私たちの研究室をはじめ工学の諸研究室および所外関連大学などとの共同研究でペネトレータという観測プローブを開発してきました。これは周回衛星から惑星(衛星)に槍型の観測プローブを投下し表面の砂に貫入させて観測を実施するものです。このペネトレータは直径約15cm,長さ約80cm,重量は約13kgあります。現在LUNAR-A計画が2003年度の打ち上げを目指して準備を進めているところです。この観測プローブで熱流量を計測するのですが,実はこのペネトレータすべてが「熱流量センサー」なのです。


図1 レゴリス中にペネトレータが垂直に貫入したときの     
   温度分布数値シミュレーション結果。等温度線間隔は0.02度


 月レゴリスの熱伝導率は,ペネトレータを構成する熱伝導率に比べ10倍からものによっては数百倍もの熱伝導率があります。熱伝導率の小さいものの中に,このように熱伝導率の大きな物質が置かれると熱の流れが大きく変化し,高精度で温度を計測してもそれは月レゴリス本来の温度勾配を測定していないことになります。ペネトレータがレゴリス中に存在するときの等温度線推定図を図1に示しました。この数値シミュレーション実験結果の場合,月レゴリスの温度勾配が1m1度のときペネトレータ表面ではわずか0.1度の温度差しか観測されません。従って,ペネトレータの熱物性を調べるのが最も重要な試験の一つになります。電子回路や電池,そして他のセンサーなどが搭載されているペネトレータの熱物性を精密に測するのはかなり大掛かりな試験になります。各部品ごとの要素試験も実施しますがフライト品の熱物性を精度よく実測することが必要不可欠です。現在大型スペースチェンバー施設を用いて測定しております(図2)。これはペネトレータを真空環境下中にセットし,周囲温度を適切に変化させたときのペネトレータの温度応答を精密に調べることによって各部の熱物性を調べるというものです。温度の変化のさせかたやペネトレータに装着するテープ材の改良,ときにはペネトレータの一部にヒーターを取り付けて温度応答を調べるなど試験の機会があるごとにいかに精度よく熱物性を計測するかを考えて工夫を続けています。


図2 ペネトレータ熱物性測定試験概観


(たなか・さとし) 


#
目次
#
東奔西走
#
Home page

ISASニュース No.254 (無断転載不可)