No.251
2002.2

第3章 ブラックホール  

ISASニュース 2002.2 No.251 


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- No.251 目次
- はじめに
- 「あすか」の軌跡
- X線天文学の予備知識
- 第1章 X線で探る星の世界
- 第2章 天の川銀河とマゼラン星雲
+ 第3章 ブラックホール
- ブラックホールを区別する
- X線で探るブラックホールの素顔
- 中質量ブラックホールの発見
- 巨大ブラックホールの重力を感じた?!
- 活動銀河核
- 第4章 粒子加速と宇宙ジェット
- 第5章 宇宙の巨大構造と暗黒物質
- 第6章 X線天文学はじまって以来の謎に迫る
- 「あすか」からAstro-E2へ

- 宇宙科学研究所外部評価要約
- 編集後記

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 1916年カール・シュバルツシルトは,アインシュタインの一般相対性理論から重力場を記述する最初の解を見つけました。それは,質量をもつ「もの」の大きさをどんどん小さくして,ある大きさ以下にすると,そこからは光さえも出ることができなくなるということを予言するもので,ブラックホールという概念の誕生でした。この「ある大きさ」は,発見者の名前にちなんで「シュバルツシルト半径」とよばれています。たとえば,太陽なら半径を3kmに,地球なら1cmにまで縮めるとブラックホールになります。もちろん,実際には太陽や地球がそんなに縮んでブラックホールになることはありません。それではブラックホールはどのようにしてできるのでしょうか

 第1章でも触れましたが,太陽のような恒星は,星の内部の水素を燃料にして輝きを保っています。燃料を使い果たすと星は死をむかえます。このとき,太陽程度の質量の星は白色矮星になります。太陽のおおよそ8倍から30倍の質量の星になると,最後に大爆発を起こし(超新星爆発),星を形作っていた鉄の中心核が強い重力でつぶれて中性子の塊の星 dash 中性子星 dash になります。中性子星は半径が10km程度しかないのに太陽と同じくらい質量が大きな,とても密度の高い星 dash 角砂糖一つ分の大きさで7億トンにもなります dash です。では,もっと質量の大きな星ではどうなるのでしょうか。太陽より30倍以上質量の大きな星が大爆発を起こすと,中心核の星の重力はさらに強く,中性子でさえつぶれてしまいます。そうなると,もう縮むのを押しとどめる力はありません。どんどん縮んでついにブラックホールができるのです。

 このようにしてできたブラックホールの存在を,観測で確かめることはできるのでしょうか。ブラックホールからは光さえ出てくることができないのですから,基本的にはブラックホールを直接見ることはできません。ところが,ブラックホールにものが落ち込むと,その強力な重力によってX線が出てくることがあります。したがって,X線を観測することによって,ブラックホールを見わけることが可能になります。実際,ブラックホールの観測的な研究は,20世紀後半X線天文学の登場によって花開いたのです。現在では,ブラックホールが私たちの宇宙に実際に存在することは疑いのないものとなっています。『ブラックホールを区別する』では,ブラックホールがX線でどのように見え,中性子星などとどのようにして区別することができるのかを,X線で探るブラックホールの素顔』では,「あすか」などによる最近の観測でどういうことがわかってきたのかを紹介します。

 これまでに存在が知られているブラックホールは大きく2種類に分けられます。一つは,最初にお話した,太陽の30倍より質量の大きい星が進化の果てに自らの重力でつぶれてできるブラックホールで,これは太陽の10倍程度の質量であることから「恒星質量ブラックホール」とよばれています。もう一つは銀河の中心に存在すると考えられている,太陽の100万倍から10億倍もの質量を持つ「巨大ブラックホール」です。現在では,多くの銀河がその中心に巨大ブラックホールをもつと考えられていますが,それがどのようにしてできたのかは謎につつまれていました。けれども,「あすか」などの活躍により,太陽の100倍から1000倍という,恒星質量ブラックホールと巨大ブラックホールの中間の質量を持つブラックホール(中質量ブラックホール)が存在していることが明らかになってきたのです。中質量ブラックホールは,恒星質量ブラックホールが合体しながら巨大ブラックホールへ成長する途中の姿かもしれません。『中質量ブラックホールの発見』では新たに見つかりつつある中質量ブラックホールについて,『巨大ブラックホールの重力を感じた?!』では精密X線分光による巨大ブラックホール観測の最先端を,そして『活動銀河核』では巨大ブラックホールの周辺の様子についてわかってきたことを,いずれも「あすか」の観測成果を中心にお話します。


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目次
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ブラックホールを区別する
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第4章 粒子加速と宇宙ジェット
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