No.246
2001.9

ISASニュース 2001.9 No.246

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バイコヌール宇宙基地訪問記

中 部 博 雄  

 材料の宇宙暴露実験装置をソユーズで打ち上げるミッションに同行させてもらう機会をえた。8月20日,モスクワからチャーター機でカザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地に向かう。砂漠は延々と続き,時折干上がった塩湖が白いシミを見せる。生物の存在を感じさせない。出発して3時間ほどで,鉄塔の集団が遠くに点在しているのが見えてきた。ロケットの発射台だ 砂漠に忽然と現れた広大なスペースシャトル「ブラン」用の滑走路に降り立つ。暑い 当然撮影禁止である。バイコヌール宇宙基地の広さは,ケネディースペースセンターの9倍約5000平方キロと桁外れに広い。発射施設は15カ所あり,5種類のロケットを打ち上げることが出来る。飛行場から小型バスで砂漠の中を進んで行くと,水道のパイプラインが道に沿って見えてきた。これは塩害が強く地中に埋めるとすぐ酸化してしまうからだ。基地内には鉄道が縦横に走っており,機材やロケットの運搬に用いている。

 まず案内されたのが,エネルギアの発射場,錆びついた発射台と整備塔がそびえ立っている。深さ40メートル60メートルはありそうな火炎偏向溝がロケットの大きさを想像させる。エネルギアは100トンのペイロードを低軌道に投入できるロケットで,「ブラン」を1度打上げたが,資金難から使用されなくなった。かつて,有人の月着陸を目指して最大直径16メートル,全長105メートル1段目30個ものノズルを持つN1ロケット4機,この発射台から打上げられたが何れも失敗に終わった。

 エネルギア・ブラン総合棟には,幾つものクリーンルームがあり,宇宙船や宇宙服の調整が行われていた。エネルギア整備棟は,おおよそ高さ60メートル,幅 70メートル,奥行き200メートル以上もあり,飛ぶ機会を失ったエネルギアとブランが結合して,水平状態で保存されていた。身に迫る圧巻である。

 ガガーリン博物館で昼食をとり,北西に向かって荒れ果てた道路を100キロ近くの猛スピードで走る。車内は冷房が弱く暑い,幾つかの発射台やアンテナを過ぎて,40分ほどでプロントの整備棟に着いた。高さ約30メートル,幅30メートル,長さ220メートルあり,100トンのクレーンが4機ある。プロトンを水平状態で2機同時に整備したり,結合する事が可能である。クリーン度はクラス2万と言う。プロトンは,ロシア最大の運用ロケットで,20トンのペイロードを低軌道に投入する能力がある。

 ぼつぼつソユーズの打上げ時間が迫っている。急いで来た方向,約60キロ先の発射台へ車を走らせる。ここは,ガガーリンを宇宙に送り出した発射台で,今回の打上げで409機目になると言う。水平状態で結合されたソユーズが鉄道で発射点まで運ばれ,垂直に立てられる。つに割れたランチャーがロケットを挟む状態で装着される。ソユーズは全長45メートル,直径3メートルのメインロケットに4本の補助ロケットが装備され,低軌道に7トンのペイロードを投入する事が出来る。打上げ準備作業は淡々と続けられていた。冬は−40℃,夏には+40℃にも達するので,制御室や発射管制室,燃料貯蔵タンクは地下に設けられている。

 打上げは,発射点から約2キロ先の見学席から見る。ランチャーは倒され,打上げ準備は整った。点火1分前のアナウンスはあったが,カウントダウンは無い。突然,赤い光を放ったと思った瞬間,ソユーズは静かに,ゆっくりと上昇を始めた。煙はほとんど見えない。徐々に加速し,機体は大空に吸い込まれていった。特別の緊張感もなく,ジェット機が飛んで行く様にごく自然な打上げ風景。約40年前から1000機以上も打上げてきた実績から来る自信を感じる。道路や建物の傷みは激しいが,商業衛星や外国からの資金提供,或いは共同ミッションで,バイコヌール宇宙基地は新しく変わろうとしていた。その後,モスクワに戻り,衛星追跡センターで今回打上げた貨物船の見事なドッキングを見学した。また,そこにある博物館は,実際に回収した宇宙船が多数展示してあり,一見の価値がある。

 横田さん,NASDAの皆様,お世話になり,ありがとうございました。

(なかべ・ひろお) 


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