No.243
2001.6

ISASニュース 2001.6 No.243

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水ロケットと五月祭から未来へ

久 保 田 弘 敏  

 4月の末,大阪府立大学高橋克忠教授のお世話で,子供向け理科実験教室「水ロケット体験学習」を関西文化学術研究都市で開きました。当地にはKVC(けいはんなベテランズサークル,6月から「けいはんな文化学術協会」として法人化)という団体があり,高橋教授はその事務局長をつとめておられます。KVCには,元大学教授や企業の技術部長を退職された方等が参加されていて,地元の科学技術振興に貢献しています。私自身は,岩手県遠野市での「コスモキャンパス」で子供達と一緒に水ロケット打ち上げをしたことはありますが,心許ないので,私どもの大学の学園祭「五月祭」で水ロケット打ち上げを企画していた学生のリハーサルを早めにやってもらって,自信をつけました。当日までに,KVCや府立大の学生の方達が準備してくれていて,当日は小雨でしたが,国際高等研究所のご好意で,そのきれいな中庭で打ち上げをすることができました。KVCでは圧力計付きの空気ポンプを用意してくれていましたので,空気圧と水の量を変えるとどういう飛び方をするかを考えるという教育的効果を発揮することもできました。子供達の生き生きした嬉しそうな顔がとても印象的でした。この中から,将来の宇宙活動を担う若手が育ってくれれば,という実感がありました。息子が小学生のときにPTA会長を3年間勤めたことがありますが,そのときに子供達と遊んだ記憶が蘇って来ました。ただ,聞くところによると,水ロケットは小学校の学習指導要領から外れたということで,非常に残念な気がします。

 私達の大学では,5月下旬に上記の「五月祭」が開催されます。これに参加する企画は,専門課程に進学してきたばかりの3年生が主体的に行い,教官はいろいろな形でサポートしています。今年の3年生は特に熱心で,自分たちが調べたものだけでなく,各研究室での研究成果等の展示もしたいと申し入れて来ました。私はすぐに賛成して,風洞試験模型や結果の図表,説明文等を渡すと,彼らは徹夜でそれをパネルにしました。当方の説明を聞いただけでポスター発表ができてしまう学生の能力も大したものです。

 さて,このような若い世代の意欲に比べて,私たちおとなはどういう努力をしているでしょうか。2000年12月に宇宙開発委員会で「我が国の宇宙開発の中長期戦略」が策定されました。私もそこに参加しましたが,それが,省庁再編に伴って設置する「総合科学技術会議」でどう生かされるか,が議論の大きなポイントの一つでした。同会議は日本の科学技術政策の立案と総合調整を行う場として,重要な役割をもっています。ただ,宇宙開発の戦略がそこでどのように取り上げられるかがよく見えません。首相が「宇宙開発を推進する」と言うような環境なら良いのですが。大切なことは口だけでなく,技術力を高めて社会への説得性を持つことでしょう。そして,「総合科学技術会議」等へ私たちの意見をインプットしてゆくことでしょう。

 私は宇宙インフラストラクチャのキーである将来型宇宙輸送システムの実現を強く希っている者の一人ですが,その研究開発に対しては,ISASNALNASDA3機関を中核にして,企業,大学を含めた全日本的な体制が必要であることを痛感しています。特に,大学の果たす役割が大きいことは誰もが認めていることです。そこで,全国の大学をつのブロックに分けて,ブロックごとの具体的な研究開発体制を作り上げることにしました。この中で,研究開発を加速し,飛行実証を通して実機を作り上げる実力をつけなければなりません。

 「けいはんな」で会った子供達や,若い学生達に期待して,可能な限りの努力によって,私たちの希望を未来の宇宙活動につなげたいと思います。

(東京大学大学院工学系研究科 くぼた・ひろとし) 


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