No.241
2001.4


ISASニュース 2001.4 No.241 

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科学探査機用イオンエンジン


 イオンエンジンは宇宙機用の高性能スラスターであり,従来型ロケットのおよそ10倍という抜群の燃費によって推進剤の利用効率を高め,人工衛星や宇宙探査機の性能を最大限まで引き出す役割を果たします。これまでにNASAをはじめとする研究機関で盛んに研究開発が進められており,現在ではボーイング社の放送衛星にも搭載されるなど商品化も行われるようになりました。宇宙科学研究所でも科学探査機に特化したイオンエンジンを開発中であり,その初号機は小惑星探査機MUSES-Cへの搭載をひかえてフライトモデルの製作,開発が順調に進んでいます。


 写真は宇宙科学研究所が開発中の次期イオンエンジンの地上試験の様子です。直径20cmの新型エンジンは宇宙を模擬した真空タンクの中で動作しており,1kWの消費電力で30mN(ミリニュートン)の推力を発生します。左側の強い光源から右側に伸びる弱い発光(プルーム)に沿ってイオンが噴射されていますが,左側の強い発光の中を見てみると小さな穴がたくさんあります。この直径約2mmの穴の一つ一つからイオンが噴射していますが,イオンエンジンの高性能の秘密はこのグリッドと呼ばれる加速電極にあります。グリッドは厚さ1mm以下の薄板を3枚重ねた構造になっており,それぞれに同様の穴が空いています。3枚の板は間隔0.5mmで正確に配置され,板と板との間には1kV以上の電圧をかけます。この加速電圧を利用することでグリッドはその奥にある放電容器の中からイオンだけを引き出して秒速40km以上に加速し,その反力が推力となります。これがイオンエンジンの名称の由来です。穴を通過せずにグリッドに衝突するイオンが微量ながら存在するのですが,このイオン衝突に対して強い耐性を持った炭素繊維複合材製グリッド,そして,グリッドの奥にあるキセノンガスを電離させるためのマイクロ波によるプラズマ発生装置のつは,それぞれ今回新規開発したものです。このエンジンは,現在提案されている衛星の編隊飛行計画や,彗星や小惑星の探査計画など,様々な将来計画を実現するための基盤技術として注目されており,今後も精力的な研究開発を進めていきます。

(船木一幸,西山和孝,國中均,都木恭一郎,清水幸夫(宇宙研)) 


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耐放射線強化SOIデバイス
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