No.241
2001.4


ISASニュース 2001.4 No.241 

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深宇宙対応小型トランスポンダ


 衛星搭載用の通信機器は,はるか遠方に位置する衛星の状態を地上で把握したり,その衛星に指示を送ったり,観測データを地上に送り届けたりすることから分かるように,衛星と我々を結びつける唯一の手段であって,非常に重要な要素技術です。けれども,深宇宙を舞台とする科学探査の機会が増えるにつれ,これまでの開発水準では対応しきれない場面が増えてきました。また,搭載用機器は皆,小型・軽量・省電力化が厳しく求められるようになって,十分にその機能を保証できるかどうかも問題です。

 このような実情を打破するために,次の枠組みで新しい搭載用通信機器(トランスポンダ)の開発を行ってきました。

 1)将来深宇宙探査ミッションでの回線の確保。
 2)通信の大容量化(または,高速化)。
 3)小型・軽量・省電力(いわばスリム化)。
 4)(海外も含む)地上局側と衛星側の技術の整合性。

 開発要素の一つの目玉は,測距信号再生機能をトランスポンダに与えることでした。これは,地上から送った距離計測用の信号を衛星内で受信し,一つ一つ雑音の中からきれいにして地上局(我々)に送り返す手続きのことです。これまではずっと簡単に,衛星は受けとった信号を雑音と一緒に増幅して折り返すだけでした。このおかげでMUSES-Cのような超遠距離での測距も,ずっとやりやすくなります。測距信号は,パターンの繰り返しとなるPN符合(M系列255511の積)を使って,その繰り返しのタイミングに合わせて信号を積算(同期積分)することによって雑音の影響を取り除く,というシンプルな構成を提案しました。原理動作の確認の実験を行い,問題なく機能することを初めて実証しました。トランスポンダとしては次世代のX帯用で,ベースバンド以降の処理をディジタル処理にするなど,閾値低減に向けた構成で設計を行っています。上記の測距信号の再生処理もディジタル信号処理の範囲で実現されています。低コストでの開発が絶対条件でもあるため,宇宙環境で使用可能な民生部品の探索を積極的に推進し,RF部の周波数設計はこれを反映してきました。

 完成すれば,世界に先駆けた先進的な衛星搭載用トランスポンダとなるはずで,金星・水星探査プロジェクトでの活躍も期待できます。

(戸田知朗,齋藤宏文,高野忠,山本善一(宇宙研),富田秀穂(アドニクス)) 


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