No.241
2001.4


ISASニュース 2001.4 No.241 

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惑星気球の可能性


 大気のある惑星には気球を浮かべることができる。表面を接近して観測したり,浮遊している大気自体のその場観測ができるので,軌道上からの惑星探査に続く次の段階として位置づけられている。同様の目的を持つランダーやローバーに比べて,広い範囲を飛翔するのも気球の大きな利点である。

 主要な大気成分は,火星と金星がCO2,土星の衛星タイタンがN2であるので,いずれもそれより小さい分子量のガスを詰めて気球を浮かせることができる。木星,土星,天王星,海王星はH2のガス体であるため,熱気球方式でのみ浮力が得られる。各々の地表面上の大気の状態を地球の大気と比べると,タイタンが最も地球に近く,火星は成層圏と同等である。特異なのは金星で,9.2MPa470℃という高温・高圧である。

 我々が検討を進めているのは,金星の低高度(<20km)に浮かべる気球である。高温・高圧の環境条件に耐えるため,薄い金属板でできた球形気球とする。直径1m程度の小型でも,大気密度が大きいので浮力もけっして小さくはない。とはいえ,気球本体をいかに軽量化するかが鍵となる。このため,2重カプセル方式を考案した。外側の球で耐圧性を確保しておき,気球の内圧と大気圧がバランスする高度で外側のカプセルを割り,内側の薄く軽量にできた気球本体を取り出す。フィルムを用いた膨張型気球についても,PBOという耐熱温度が500℃の新素材フィルムが実用に近づきつつある。その他,種々の興味ある気球方式の実現策も並行して検討している。

 火星やタイタンには,地球上の気球と同様の薄く軽い高分子フィルム製のものが適用可能である。はるばる地球から運んだ気球を長期間飛翔させるには,高度維持のためにバラストを投下する必要のないスーパープレッシャー気球が必要である。この気球は,フィルムに加わる圧力が大きいために実現が困難であったが,この間の我々の研究で可能となった。それは,パンプキン型と呼ばれる形状に局所的膨らみを付加した新しいタイプのものである。

 様々な気球が,惑星表面のクローズアップ撮像や地質分析および大気の運動や組成などの観測で今後おおいに活躍することになろう。

(矢島信之,井筒直樹,本田秀之,後藤 健,佐藤英一,今村 剛(宇宙研),
赤澤公彦,冨田信之(武蔵工大)) 


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