No.241
2001.4


ISASニュース 2001.4 No.241 

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BepiColombo 水星探査計画


 ヨーロッパ宇宙機関(ESA)で計画されていた大型水星探査ミッション“BepiColombo”を日欧協力で実施する計画が検討されています。2000年10月ESAはこの計画を第番目のコーナーストーンに正式に認定しました。太陽に最も近い惑星,水星は,地球からの観測が難しく,また,探査機による水星の観測データは過去に唯一,米国のマリナー10号によるフライバイ観測(1974−1975)があるだけです。マリナー10号は金星スウィングバイを利用して水星に3回近づいたのですが,この方策をNASAに提案したのがイタリアの応用数学者Giuseppe (Bepi) Colombo(1920−1984)でした。また,彼は水星の自転周期(58日)と公転周期(88日)が正確に2:3の関係にある事を説明した事でも知られています。


図1 地球型惑星,月の半径と密度の関係

図2 地球型惑星,月の半径と密度の関係

 水星に関する情報はきわめて断片的なものしかありませんが,不思議な惑星です。例えば,大きさの割に平均密度が異様に大きく(図1図2),そのため,半径の75%より内側は鉄の中心核で占められています(図3)。マリナー10号の観測はいくつか驚くべき結果をもたらしましたが,なかでも,この小さな惑星が内部に固有磁場,周辺に磁気圏を持っている事を発見した時には非常な驚きを引き起こしました。惑星が固有磁場を持つためには,中心核が融けていて電流が流れていることが必要です。中心核が融けているためには元々の惑星形成時に集積された物質量の多いことが必要ですが,水星程度の大きさでは中心核が一部にせよ融けているとは想定されていませんでした。水星磁場の正体は果たして何なのでしょうか そして,マリナー10号は,地球のオーロラが活性化する時に観測されるのと同様な高エネルギー電子の発生に遭遇しました。本当に,地球の磁気圏と同じような事が起こっているのでしょうか


図3 水星内部構造の2層モデル(GPa:109パスカル(圧力の単位))


図4 マリナー10号が撮影した水星表面

 また,水星の表面地形は月と似ているようですが(図4),マリナー10号がこのような写真を撮った所は限られていて詳しい事はほとんどわかっていません。ごくわずかにある稀薄な大気の主成分はナトリウムで(図5),その量も空間分布も時間的な変化をしているようです。更に,地球からのレーダー観測によって,極のクレーター底にあるかもしれない氷と思しき兆候が10年程前に発見されました。このように水星には不思議な事が多々あり,勿論,それらの原因についての説明が提案されていますが,ほとんどが仮説・推論にすぎません。


図5 水星磁気圏とNaの分布モデル

 これらの謎を解き明かすには水星の周りを回る衛星観測が必要ですが,技術的には大変な困難があって未だに実現していません。例えば,地球とは公転速度があまりにも違う上に水星が小さいため,その周回衛星の軌道に投入するには高い推進能力を持つエンジンが必須です。また,水星表面の温度は昼間側で最高470℃にも達しますから,普通では近寄れません。しかし,近年の技術的進展によってこれらの問題を克服するメドが立ってきました。宇宙研の水星探査ワーキング・グループでもその実現可能性の検討をしていましたが,1999年秋に行われた「ESA−ISAS会議」においてESA側から協力の打診があり,ESAの大型水星探査ミッション「BepiColombo」を一緒にやるための検討が行われてきました。このミッションは,水星の内部構造,表層,大気,磁気圏にわたる広範な目的をカバーするため,3軸姿勢制御のMPO(Mercury Planetary Orbiter),スピン安定のMMO(Mercury Magneto-spheric Orbiter)という2個の衛星,およびランダー(MSE:Mercury Surface Element)のつの要素から構成されています(図6)。


図6 BepiColomboを構成する3つのモジュール

これらを2組,すなわち,つはMPO,もう1組を「MMO+MSE」に分けて2009年夏に打ち上げ,2012年秋に水星周回軌道に投入する計画になっています(図7)。巡行中の軌道制御には電気推進を用い,金星と水星の多重スウィングバイも利用し,最後の周回軌道投入には化学推進(液体燃料)が使われる予定です。周回軌道投入後,MPOは化学推進モジュールから切り離されて単独の衛星となり,一方,「MMO+MSE」組はMMOを切り離した後,MSEを高緯度に着陸させます。MPOMMOの軌道は共に,傾斜角90°,近水点が赤道上空400kmにあります。遠水点はそれぞれ,MPO1,500kmMMO12,000kmにあり,軌道周期は2.3時間9.2時間1:4の関係を持って同期させようとする計画です。宇宙科学研究所の役割はMMO衛星の開発と運用を担当する予定になっています。

(水星探査ワーキンググループ) 


図7 BepiColombo探査機


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