No.239
2001.2

ISASニュース 2001.2 No.239

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第21回

光結合型VLBI実験

村 田 泰 宏  

 VLBIという技術は,遠隔地に離れた複数の望遠鏡(ここではつのパラボラアンテナの電波望遠鏡)を結合してつの大きな望遠鏡を作る技術です。それぞれの望遠鏡を通った電波は,一時的に磁気テープに記録され,あとで,「相関局」と呼ぶ処理センタで再生されて,焦点を結びます。普通の望遠鏡では,焦点は望遠鏡の中にあり,そこに検出器を置いて観測を行ないますが,VLBIの場合は,焦点は相関器という処理装置の中にできます。現在宇宙研で運用している,「はるか」衛星は,この技術を利用して地上のアンテナ群と協力して,口径約3万キロメートルの地球より大きな巨大な望遠鏡を実現しています。

 このVLBIの観測の場合,各アンテナでの磁気テープへの記録速度が相関器に送ることのできるデータ量を決めます。このデータ量が多ければ多いほど,ほとんどの天体に対する観測の感度が大きくなります。感度を上げるためには,磁気記録の速度を上げることが必要ですが,最新の技術でも1〜2ギガビット毎秒(Gbps10億ビット毎秒)がせいぜいです。そこで,ほかのデータ伝送の手段として,光ファイバ公衆ネットワーク回線によるデータ伝送に目をつけました。現在の実験で使用している回線では,最大2.5 Gbpsですが,この分野の技術進歩はすさまじく,1本10Gbps以上, ファイバを束ねればさらに伝送速度を上げられ,その分観測の感度があがります。

 また,従来オフライン処理で磁気テープが到着してから開始していた処理がリアルタイムで行なうことができるようになり,データの品質確認やフィードバックがその場でできるようになるという利点もあります。がそれに「はるか」の場合は,衛星と地上のデータ伝送速度,および,地上での磁気記録の速度の双方がボトルネックとなります。

 この光結合型VLBI観測を実現するために,国立天文台・通信総合研究所・NTTと技術開発の共同研究を行って来ました。宇宙研のグループは,将来の衛星への応用も視野に入れ,「はるか」のデータの光結合型VLBIによる実時間処理の研究を行なっています。この共同研究では,宇宙研臼田宇宙空間観測所64mアンテナ,「はるか」のデータ受信用10mアンテナ,通信総合研究所鹿島の34mアンテナ,そして国立天文台三鷹相関局をNTTATM(非同期転送モード)回線で結合して実験を行っています。

 つの大きな課題は,高速かつ1マイクロ秒以下の時刻精度の必要なVLBI観測データをどのようにして,ネットワーク伝送プロトコルに合わせて伝送するかです。その方式を確立したことにより通信総合研究所,臼田64mのアンテナ等を利用して地上のアンテナのみの光結合型VLBIの観測が,256メガビット毎秒(Mbps: 100万ビット毎秒)のデータ伝送速度では成功し,現在さまざまな観測を実行中です。また,地上VLBIでは,さらに光ファイバの帯域を目いっぱい使用して感度を飛躍的に向上させる方向で研究開発をしています。

 「はるか」を含めたスペースVLBI実験の場合,地上光結合型VLBIで発生した問題のほかに,リアルタイム処理のために,衛星の周波数制御誤差や,位置推定誤差を,追跡データを利用して反映することができないという問題があります。そのために相関器で上記の誤差をどのように吸収するかを検討しています。その問題点の解決の目処も立ち,現在最終的な実験の準備を行なっています。


ネットワーク回線のパケットからVLBIデータに変換する受信装置

 写真は,この実験のために開発され国立天文台の相関器に設置されたネットワークに流された VLBIデータを,通常のVLBIで使用している形式に変換する受信装置です。この実験によって,複数の望遠鏡を光ファイバ回線を使って結合することが可能となりました。今後,国際回線の整備が進むことにより,現在磁気テープレベルで行なわれているVLBI観測が光回線に置き換わり,さらなる高感度観測を行なうようになるでしょう。さらに,将来,衛星同士での干渉計の計画では,光伝送による衛星間通信で干渉計観測のデータの伝送のための基礎技術のつとなるでしょう。

(むらた・やすひろ) 


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