No.233
2000.8

ISASニュース 2000.8 No.233  

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アクトンさん,米天文学会ヘール賞を受賞

H. S. Hudson (UCSD),小 杉 健 郎(宇宙研)  



 Haleは太陽磁場の発見者として,またパロマー天文台200インチ望遠鏡を作ったことでも知られる20世紀初頭の著名な天文学者である。アメリカ天文学会では毎年,彼の名を冠したHale賞を太陽物理学分野で大きな業績を挙げた研究者に贈っている。これまでの受賞者には BabcockDavisDe JagerParkerWild 等のそうそうたる名前が並んでいる。

このHale賞2000年度の受賞者に「ようこう」チームの Loren Actonさんが選ばれた。Actonさん,おめでとう。この十数年,Actonさんは「ようこう」を中心に活躍してきた。彼の受賞は「ようこう」そのものが評価されたことでもあり,チーム一同この受賞を誇りに思っている。


Rochester大学での授賞式のようす。Actonさん(左)。


Actonさんと「ようこう」

 Actonさんは実験物理屋として,宇宙時代の幕開けいらい,さまざまな宇宙実験に参加してきた。ちなみにコロラド大学での彼の博士論文の研究テーマは線による宇宙観測についてであった。

「ようこう」に先立ち,Actonさんが宇宙飛行士としてスペースシャトルに乗り込んだことを知らない人はいないだろう。彼は1985年Spacelab-1ミッションで太陽観測を担当するミッション・スペシャリストの役目を立派に果たした後,天体物理学に復帰した。

 1970年代いらい,Skylab(及びいくつかのロケット実験)で斜入射反射鏡が使われ,太陽コロナの華麗な軟線像が得られるようになった。しかし,これらはいずれも写真フィルムを用いた撮像であり,CCDを用いた連続撮像が待望された。日本では宇宙研及び東京大学,国立天文台のグループを中心として,「ひのとり」の成功を引き継ぐ衛星計画が議論されており,この流れが日米国際協力での新しいタイプの軟線望遠鏡へと結びついた。主要な役割を演じたのは,Actonさんの率いるロッキードのグループ,及び日本の常田佐久(現国立天文台教授),小川原嘉明(現宇宙研名誉教授)であった。かくして,「ようこう」軟線望遠鏡SXTが誕生し,今日までおよそ9年間にわたりダイナミックに変動する太陽コロナの姿を完璧に捉えつづけている。


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「ようこう」の科学成果

 本年6月Rochester大学にて行われたActonさんの受賞記念講演に沿って,「ようこう」の科学について若干補足する。

 「ようこう」はSXTで太陽コロナの超高温成分を,硬線望遠鏡 HXT(宇宙研,東大理,国立天文台で共同開発)で高エネルギー現象を研究している。この両者の共同で,「ようこう」は太陽フレア及びコロナ・マス・エジェクション(CME)などの磁気爆発現象の核心に迫る画期的な成果をあげてきた。実際,SXT2秒HXT 0.5秒というかつてない高い時間分解能で爆発現象を観測し,たくさんの発見をなし遂げた。

フレア爆発もさることながら,Actonさんはミッション当初から『恒星としての太陽』に興味を持ち,長期間にわたる太陽コロナの変動をムービーにすることを重視してきた。これもCCDを持たないSkylabではできなかったことだからである。毎日約50枚の太陽全面画像を取得し,9年間にも及ぶ太陽コロナの変動をひとつの映画として記録して,我々は数えきれないほどの多くの発見dash 多くはフレア爆発と関連しているdash を導くことができた。「ようこう」データは国際的な太陽物理学コミュニティの共有財産となり,SOHOTRACEなどの後続ミッションが活躍しはじめてからもその輝きを失っていない。今日では太陽物理学のどんな国際研究集会でも「ようこう」データを使った発表がないことは考えられない。


SXTにより得られた太陽コロナの蝶形図。
縦軸は中央が太陽緯度(真ん中が赤道),横軸は時間。  
「ようこう」9年間の太陽コロナの明るさの変化を示す。

 Actonさんの「ようこう」ムービーをさらに圧縮して,1枚の図で太陽コロナの変動のようすを概観しよう。これは軟線で見た太陽コロナの明るさを東西方向にスタックし,太陽緯度ごとに輝度変動を記録したもので,太陽黒点の所謂『蝶形図』に相当する。太陽の11年周期変動を鮮やかにみてとることができる。

 Actonさんは現在,モンタナ州立大学を半分リタイアした状態ながら,「ようこう」を中心とした研究活動を活発に続けている。


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