No.232
2000.7

ISASニュース 2000.7 No.232

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宇宙ロボットの「夢と悪夢とクローノス」

狼 嘉 彰  

 ロボット関連の最近の議論を参考にして,「軌道上作業ロボット」の感想を述べたい。

 第一の論点:多くのロボット研究の中には,「火災時などの危険作業にも応用が可能」と主張してはいるものもあるが,火に近づけただけで燃え尽きてしまいそうな代物が多い。研究者が夢を見ているだけで「実際に役立つロボット」に仕上げるために必要な悪夢を見ていないからだ。電源・通信・構造など全体設計と十分な試験が不可欠と認識すべきである。

 第二の論点:阪神大震災,原発事故,JCO事故など災害現場において,人間に替わって危険な救助活動をするはずのロボットは影も形も現れなかった。ニーズ指向の欠如である。

 第三の論点:H-IIロケット8号機失敗の際,海洋科学技術センターの海洋調査船によるエンジン破片の確認(査察),精密カメラによる残骸の撮影(点検),支援船とロボットアームによる回収が,事故発生後2ヶ月以内に達成され、事故原因の究明に貴重な資料を提供した。人間や支援システムと協調し,任務を果たした「災害救助ロボット」の実例である。

 さて,無人ランデブ・ドッキングとロボット実験に成功した技術試験衛星「ETS-VII」により,軌道上サービスロボットはどのレベルに到達したのだろうか。ETS-VIIは多くの宇宙技術者の「夢」を盛り込み,様々な「悪夢」想定してシステムを設計し,地上試験を重ねて,当初のミッションを達成した。第一の論点には合格したと思われる。しかし,実際のサービスを要求する第二の論点に対する回答は与えていない。この時期,太陽電池アレイを破損したADEOSや静止軌道に投入されなかったCOMETSが,レスキューを待っていた(と,宇宙ロボット屋は勝手に想像する)。ETS-VIIは,軌道も違うし基本的な機能がいくつも抜けているのだから,これらの衛星の救助作業は土台無理,というのが宇宙関係者の常識である。しかし,これでは,第二の論点で厳しく指摘された「いざと言うときに現場に現れない実験室内のロボット」に過ぎないことになる。では,どうすべきなのか。

 最も重要な要素は,「時間」すなわちクローノスにある。人工衛星の不具合発生と同時に,作業シナリオの確定,ハード・ソフトウエアの整備・試験・運用体制が実現されなければならない。これは,サブシステムのモジュール化や通信ネットワークなど最先端技術の採用で十分可能である。問題は,打上げ手段で,「直ちに,手軽に,確実に,しかも安価に」利用できるロケットなくしては,軌道上レスキューは画餅である。不具合衛星の修理などの夢物語はさておき,故障衛星を捉えて正規の軌道に戻すことや宇宙ステーションへの曳航は十分可能であり,機器の交換や機械的不具合の機能回復,燃料補給なども実現可能の範囲内である。革新的な宇宙輸送系やAI化された追跡管制などにより,タイムリネスと回収コスト低減を実現すれば,NASAも果たせなかった「軌道上サービス」も夢ではない。

参考にさせて頂いた文献:
1) 江尻,「夢と悪夢の重要性」,日本ロボット学会誌, 16-1,pp.45,1998
2) 牧野,「ロボット開発の進め方(1)」,ロボット No.134. 2000.5
3) JAMSTEC No.46 日本海洋科学技術センター機関誌特集号 2000.4

(宇宙開発事業団 おおかみ・よしあき) 


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