No.227
2000.2

ISASニュース 2000.2 No.227

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インド物理学研究所訪問記

小 杉 健 郎  

 インドの大地には我々の日常の生の営みとは異なったペースで悠久の時が流れている。これはたしか,堀田善衛『インドで考える』のなかの一節です。インドを旅すると,やみつきになるか二度と来たくなくなるか,どちらかだとも書いてあったと思います。私は後者のようです。インド訪問はこれが三度目です。

 インド宇宙局の物理学研究所(Physical Research LaboratoryPRL)のJain博士から,「ようこう」の成果を踏まえて,インドで進行中の太陽フレアX線分光観測(SOXS)計画に助言をしてくれとの依頼が飛び込んできたのは昨年の夏まえのことでした。なにしろ,インドには3つの季節(hot, hotter, hottest)しかありませんから,すこし涼しくなった頃を見計らって出かけたわけです。

 1月16日,日曜日,夕刻ニューデリー着。インド科学技術省のプロトコル・オフィサーPrakashさんに出迎えていただき,ゲストハウスへ。民家の2階を借り切ったゲストハウスは,一流ホテルなみとは言えないにしても,まあまあでした。翌朝は3時半に起床,6時の飛行機でPRLの所在地アーメダバードへ。ゲストハウスで一服したのち,10時PRLに行き,SOXS計画のミーティングに参加。このミーティングにはバンガロールのインド天体物理学研究所(Indian Institute of AstrophysicsIIA)その他からの参加者も含めて,約20名ほどが出席していました。

 月曜午前にさっそく「ようこう」の一般的紹介。午後には「ようこう」の観測装置について,やや詳しい話をしました。火曜,水曜も,SOXS計画について要所要所で意見を求められるので,うとうとすることもできません。また,太陽フレア磁気リコネクション説,日本の太陽物理学の現状,アメリカのHESSI計画を紹介して,意見交換。木曜日,全所のコロキウムで100名ほどの聴衆を相手に再度「ようこう」の成果を話しました。また,Agarwal所長を表敬訪問しました。

 というわけで,PRLではハードスケジュールでした。でも楽しいことも多々ありました。ゲストハウスからPRLまでの徒歩で15分くらいの道すがら,孔雀やオウム,リスなどの野生動物に接することができました。ゲストハウスにはイギリス人教授ご夫妻が滞在中で,食事どきには楽しい会話がはずみました。教授は昔オーストラリアのCSIROPaul Wild教授について太陽電波天文学を学んだとのことで,共通の話題があったことも幸いでした。

 問題は,アーメダバードが属するジャイムール州がドライ・ステートであったということ。砂漠に近く,駱駝が街を歩いていることが問題なのではありません。酒を売っていないのです。成田でウィスキーを買って行って正解でした。でも,インド人を私の部屋に招待して酒盛りをやったのは,違法だったかな?

 毎日毎日,ゲストハウスのコックさんが腕によりをかけて3食を作ってくれるのですが,全くのベジタリアン・フード。せめてタンドリー・チキンぐらいは一度でいいから食わせろと支配人と交渉,色よい返事は貰えたものの,私の出発までにはとうとう出てきませんでした。3ヶ月滞在すると言ってたあのイギリス人ご夫妻は今ごろ食べさせてもらえたのでしょうか?

 木曜日には夜行列車で8時間かけて250キロほど北上,次の目的地ウダイプールに行きました。ここはPRLのウダイプール太陽観測所の所在地です。また,長い歴史を誇る有名な観光地でもあります。ここで旧知のBhatnagar先生ほかの方々と,じっくり日印の太陽物理学共同研究の相談ができました。ウダイプールは日震学の世界的ネットワークであるGONGの観測基地のひとつで,この方面の研究がさかんです。太陽活動の光学観測も,年間300日以上の晴天という好立地を活かして,活発に行われています。光学干渉計による高分解能観測の基地実験もやっています。金曜,土曜だけの短い滞在でしたが,若い研究者が自分の研究を熱っぽく紹介しコメントを求めてくる,その熱心さには胸を打たれました。この若い人たちには,土曜の午後,ウダイプールの王宮や近郊のヒンズー寺院を案内していただきました。多謝。

 というわけで,中身の濃いインド訪問になりました。日曜日にニューデリーに戻り,帰国の飛行機を待つ午後のひととき,再びインド科学技術省のPrakashさんにお世話になって,クトプの塔などの観光名所を訪れることができました。このインド訪問は,日本学術振興会とインド科学技術省による日印科学技術協力事業により実現したものです。関係各位に深謝。

(こすぎ・たけお)



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