No.224
1999.11

ISASニュース 1999.11 No.224

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空力シリ−ズ 最終回

宇宙輸送の空気力学とコンピュータ

藤井孝藏  

 空力シリーズも今回で最後です。今回は空力技術とコンピュータについてお話しましょう。

 今回のシリーズでは「熱い」課題が主に紹介されてきましたが,「熱い」以外に空力的な課題がないわけではありません。ロケットの空気抵抗の軽減化や見積もり推算の向上はペイロードの増加につながりますし,再使用型飛翔体やスペースプレーンなどの将来型宇宙輸送ではさらに難しい空気力評価が必要になります。静的な評価に加えて動的な評価も安定性を議論する上で大切です。また,機体速度が音速に近くなるいわゆる遷音速域では,複雑な衝撃波などが発生して思わぬ空気力を受ける場合も出てきます。民間の航空機が音速の90%以下で飛んでいるのもこのような理由からです。「音の壁」ですね。

 再突入カプセルの話がまさにそうです。MUSES-Cのようなカプセルが再突入してくる際には,音速付近で図のような流れ場が形成されます。前々回に稲谷先生が書かれたように物体の後ろでは複雑な渦を巻き,低速度域ができますが,これが背面衝撃波などと絡んで複雑な流れ場を作ります。これがカプセルにピッチ/ヨー振動を起こすこと,風洞試験による解析が有効だったことは前回記述されました。形状にもよりますし,角度がつくと安定側に変化するので不安定というわけではありませんが,気にはなります。また現象自体は知られていますが一体どういったメカニズムで起こるのかは明らかではありません。


再突入カプセルまわりの遷音速流れ

 こういったとき,計算機シミュレーションが力を発揮します。図も実はその結果です。実験では,力などの情報は得られますが,空間内の複雑な様子を知るのは容易ではありません。それに対して,シミュレーションは空間内のあらゆる場所での流れの時間変動を知ることができます。現在進行中ではありますが,それによってこのカプセル動的不安定現象のメカニズムが解明されると期待しています。

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 流体数値シミュレーション技術は数値流体力学(Computational Fluid Dynamics:CFD)と呼ばれ,AIAAにもCFD会議がありますし,大きな国内シンポジウムもあります。 1970年代以降航空宇宙を中心に発展してきたシミュレーション技術は,機械,土木は言うに及ばず天体物理の世界に至るまであらゆる分野で利用されるようになってきました。製造技術や材料などと違って目に見えないので目立ちませんが,航空宇宙分野からのスピンオフ技術の代表格といえます。

 国内ではNALの超音速実験機飛翔計画や NASDA - NAL の宇宙往還実験機HOPE-X の設計にもさかんに利用されています。しかし,まだまだ十分な信頼を得ていません。何故かというと計算機シミュレーションはモデル化された式を使っているからです。もちろん風洞試験にも大きさなどのモデル化が存在しますが,過去の長い歴史からモデル化の特性や必要な修正が明らかになっています。航空機についてはCFDもかなりの経験ができてきましたが,宇宙輸送についてはこれからというところでしょうか。聞くところによるとスターダスト計画ではカプセルの空気力推算にCFDが使われ, CFDの空力データのみに頼った速度領域も広いようです。流れ解析の道具としてのCFDの有用性も大切ですが,同時にその信頼性を明確にして,より実践的な利用を促進したいと考えています。現在,M-Vの機体,簡単なアポロ型のカプセル,再使用型機体などの空気力を計算し,その信頼性を確認していますが,これまでのところ割と良い結果が出ています。

 更なる技術向上と信頼性確保を進め,再使用型往還機が上昇,帰還するプロセスの軌道をCFDにフライト計算を組み合わせて正確に予測できるようになる日が来ることを期待しています。

(ふじい・こうぞう)


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