No.223
1999.10

ISASニュース 1999.9 No.222

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国際宇宙大学(ISU)サマーセッション

名 取 通 弘   

 宇宙科学からスペースアートまで宇宙に関わるあらゆる分野を教えたいという広範な試みをしている大学に国際宇宙大学(International Space UniversityISU)がある。宇宙研関係では秋葉先生や小田稔先生が理事や顧問を勤められている。1988年より毎年3ヵ月の短期コース(サマーセッションプログラム,SSP)を開催しており,1995年には常設校がフランスのストラスブ−ルにできた。このSSPは毎年いろいろな国の大学の施設を夏休みの間借用して開催され,いつも100名内外の学生が参加している。

 今年のSSPはタイのスラナリー工科大学で開催された。私とISUとのつき合いは1992年の北九州市でのSSPからで,SFUや「はるか」のプログラムで忙しかったこの数年はとても参加できずにいたのであるが,今年はせっかくのアジア地区での開催ということもあって,8月4日から6日間の予定で出張した。スラナリー工科大学はバンコックから200kmくらい離れたナコーン・ラチャシーマーというタイ東北部の都市にある。とは言っても,タイについては,地名ではバンコックと北部のチェンマイくらい,大学ではアジア工科大学(AIT)が有名,というだけの知識しかないのだから,もちろんナコーン・ラチャシーマーという都市の読み方も成田で買った旅行案内書でようやく判ったほどで,はなはだ心もとない。いつもの出張のごとく出発の数日前になってようやく直接の準備ができるようになったのであるが,現地に学生として滞在している人達から,むちゃくちゃ暑いとか蚊取り線香と正露丸は必需品とかのうわさが漏れ伝わってくるようになってから,ひょっとしたらこれはいつもの出張と相当違うのでは,と思われた。

 バンコックからナコーン・ラチャシーマーへの飛行機の便は一日に朝夕の二回しかないから,乗り継ぎの都合でバンコックに一泊して翌朝現地に行く。バンコックは大都市であるからここまではまったく問題がない。現地に着くとISUのバンの送迎があるからこれも問題はない。しかし空港を出てから行けども行けども町らしいところはまったく出てこない。道の両側はだれもいない田圃続きで,椰子の葉の屋根の高床式のスケスケの建物がぽつりぽつりとしかないところを通っていると,ここでほんとうに宇宙大学が開かれているのかと,なんとなく不安になってくる。実はタイには工科大学が二つだけあって,AITにくらべてこっちは圧倒的に施設の使用料が安いというわけである。約1時間ほどでスラナリー工科大学のキャンパスに着く。この大学の施設のいくつかは何年か前の博覧会とかの時にできてから本格的に使うのは今回が2回目とかであるが,宿舎の大学のホテルは十分に整っていた。蚊取り線香はいらなかったし,部屋に備え付けの冷蔵庫にミネラルウオーターが常時補給されていたから正露丸もいらなかった。

 タイは植民地化されずに王国を保ってきたので,王室は国民に敬愛されている。バンコックのタクシーのフロントボードにも4cm四角ほどの小さな額入りの国王の写真が飾られていた。ISU SSPの開校式には才媛で名高い王女が出席されたとかで,この国のISUへの歓迎ぶりが知られるのであるが,夏休みということもあって,ISUとホテルの関係者以外だれもいない。町まではバスで30分もかかるので,学生にとっては勉強に集中できるということにはなる。

 SSPにはウイークエンドにカルチャーナイトと称する息抜きのプログラムなども用意されているのであるが,学生たちは適当に町に抜け出してリラックスタイムを持っているようであった。土曜日の夜には学生たちが町の中心部の賑やかなマーケットを案内してくれたが,今思うとそこの屋台で売っていた果物の王様というドリアンを食べ損なったのが少し残念である。そのほか名前も分からないものが多かったが果物は豊富で,また食事も中華風の料理が多く我々には違和感はない。マーケットからの帰りはトクトクという三輪車のバイクタクシーに乗る。排気ガスをまき散らすのではあるが,この乗り物はタイのひとつの文化でもある。

 宇宙研からは中谷先生と私が短期的に参加,私は宇宙構造物システムとその適応特性について二コマの講義を受け持った。茂原先生(宇宙工学科学科長,元都立科技大)や村井先生(衛星応用学科長,元生研,現AIT)が長期に滞在され,また私の短い滞在期間内では林友直先生(現千葉工大)や草薙先生(NASDA,現AIT)にも久しぶりにお会いした。林先生は相変わらずカモメなどの折り紙でISUのスタッフやホテルフロントの女性たちの人気を博していた。

 ISUは発足当初は宇宙工学が中心であったが,横断的にスペースビジネスや宇宙法や社会学といった分野を充実させている。宇宙開発の全体像の中での自分の位置付けを明確にできるのが参加者のメリットのようである。発展途上国からの優秀な学生の参加も多く,国際感覚を磨くのにうってつけということもできよう。タイは穏やかな国であった。あっという間の出張が少し残念のような気がする。

(なとり・みちひろ)


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