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No.221 |
ISASニュース 1999.8 No.221 |
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臼田Kuリンク局臼田Kuリンク局。あまり聞き慣れない名前ですが,臼田の10mアンテナといえば,64mの大きなアンテナの横にちょこんと写った写真を見たことがある人も多いと思います。この10mアンテナとそれに連なるシステムが臼田Kuリンク局で,「はるか」が天体観測を行うために欠かせない支援を行っています。 「はるか」が行うVLBIは特殊な装置を使う観測方法です。重要な装置の一つが水素メーザ発振器。非常に高精度な時計といえます。世界中に離れている電波望遠鏡で一斉にVLBI観測するために,高精度な時計で時刻合わせをし,その状態が保たれる必要があるのです。そしてテープレコーダも重要です。世界中に離れている電波望遠鏡で観測したデータはその場では処理できません。いったん磁気テープに記録して,相関処理局に持ち寄るのです。 さて,宇宙空間を飛ぶ「はるか」の場合,宇宙空間の厳しい環境に水素メーザを持っていくことができません。それに磁気テープに記録しても地上に持って帰ることができません。この問題を解決するのがKuリンク局なのです。 「はるか」に水素メーザを搭載する代わりに,臼田Kuリンク局は15.3GHzの非常に安定な電波基準信号を送信します。これを“アップリンク”といいます。このアップリンク信号を「はるか」が受信すると,水素メーザを搭載しているのと同様の観測を行うことができます。そして「はるか」が観測したデータは磁気テープに記録する代わりにリアルタイムで14.2GHzの電波信号に乗せて臼田Kuリンク局へと送信されます。これを“ダウンリンク”といいます。臼田Kuリンク局ではダウンリンク信号を受信し,それを磁気テープに記録します。 「はるか」打ち上げから1ヶ月経過した1997年3月12日,臼田Kuリンク局は初めて「はるか」にアップリンク信号を送信し,観測信号を乗せたダウンリンクを受信しました。その後の基礎実験の後,3月24日に星形成領域W49Nの方向に望遠鏡を向け,水酸基分子が放射する1.6GHzの線スペクトル電波を受信しました。臼田Kuリンク局ではダウンリンク信号をリアルタイムで解析し,「はるか」の受信信号の中にかすかながらもはっきりと水酸基分子の基線スペクトルが存在することを確認しました。このとき初めて「はるか」は電波望遠鏡としての性能が確認されたわけです。5月7日にはVLBI観測が行われ,臼田Kuリンク局と臼田64mアンテナでそれぞれ磁気テープに記録が行われました。相関局で処理した結果,この二つの観測局で得た観測信号から「相関」が検出され,VLBIの観測に成功したことが確認されました。こうして「はるか」は臼田Kuリンク局の支援によって一人前のVLBI観測局となったわけです。臼田Kuリンク局は現在もほとんど毎日「はるか」の観測を支援し続けています。 「はるか」によるVLBI観測の支援の他に,臼田Kuリンク局は衛星を使った工学実験の実験台としても活躍しています。たとえば「はるか」が受信するアップリンク信号を制御する実験。「はるか」が水素メーザを搭載しているのと同じ状態で観測できるためには,アップリンク信号の周波数を精密に制御する必要があります。そのための実験開発などが行われています。もう一つは「はるか」と臼田Kuリンク局の間にある大気が通信に及ぼす影響の実験です。大気のゆらぎによってアップ・ダウンリンク信号が変動することから,逆に大気のゆらぎの様子を調べることができるのです。 世界には臼田の他にKuリンク局がアメリカに2カ所,オーストラリアとスペインに1カ所ずつ,合計5カ所あります。「はるか」が臼田で見えている時間は限られていますが,世界中のリンク局が次々とほとんどいつでも「はるか」と通信を行って,観測の支援を続けています。 (国立天文台・川口則幸,藤沢健太) |
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