No.221
1999.8

ISASニュース 1999.8 No.221 


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活動銀河核3C 84のジェットと電波ローブ

 電波で明るい活動銀河核の中で,3C 84は距離が約2.6億光年と比較的近くにあります。VSOPを使えばジェットやその周辺の細かな構造を0.6光年ほどの解像度で明らかにすることができます。そこで「はるか」を用いたVSOPにより周波数5GHz帯の観測を行いました。また,並行して米国の地上超長基線電波望遠鏡VLBAを用いて周波数15GHz帯の観測を行いました。この二つの周波数帯でVLBI観測を行うことで,波長の違いによる電波強度の相違,つまり電波の「色」とも呼べるものが分かります。特にこの二つの観測では周波数と基線長の関係から,ほとんど同じ解像度の観測ができますので,両者の観測の比較から容易に電波の「色」付き画像,『電波のカラー画像』とでも呼べるものを作ることが可能となります。このことで天体で起きている現象を一層明らかにできるのです。

 3C 84の画像と二つの観測の比較で得られた電波の「色」の分布を図に示しました。可視光では波長の長い(周波数が低い)光が赤く,波長の短い(周波数の高い)光を青く,人間の目では感じます。ここではそれに習って,電波の「色」は5GHzの電波の相対的に明るい時に「赤」,15GHzが明るい時に「青」と表現します(残念ながら,人間の目には何も感じませんが)。


3C 84の電波写真(左)。 VSOPによる5 GHzの画像(中), VLBAによる15GHzの画像(右), 二つの観測をもとに作成した電波の「色」の分布。

 VSOPで観測した5GHzでは明るい中心核の下側に見えるジェットが二重になっていることがわかります。電波の「色」を示した画像で見ると,中央の明るいジェットでは「色」が下に行くに従い緑から赤に変化しているのに対して,左側のジェットでは上に行くに従い黄色から赤に変化しているのが分かります。

 ジェットの内部は非常にエネルギーが高い状態にあり,構成している物質の原子は完全にイオンと電子が分かれてしまった状態dashこれを『プラズマ』と呼びますがdashになっています。電波の「色」を見ることでこのプラズマの状態が推定できます。通常,電波の「色」が赤くなる事はプラズマの持っているエネルギーがどんどん失われていくことを示している,と考えられています。つまり,赤くなるに従い,最初にプラズマにエネルギーを与えられてジェットとして吹き出してから時間が経過した,と考えられます。

 これを観測した結果に当てはめてみますと,中央のジェットは流れが中心核から下側の方向に流れているのに対して,左側のジェットでは逆に下から上側に流れているものと考えることができ,ジェットが逆流しているようなのです。

 このような現象は周囲に広がる温度の低いガスに高速なジェットが吹き出した場合に起きると考えられます。高速に吹き出したジェットは進むに従いエネルギーを失い,やがてジェットの圧力が周囲に広がるガスの圧力に負けるとそこでジェットは止まります。そこで,ジェットから供給されるプラズマは周りに広がり「電波ローブ」と呼ばれる構造を作ります(画像のジェットの先端の広がった構造がそれに当たります)。左側のジェット構造はこの電波ローブからプラズマが逆流している現場であると考えられます。


 周囲の温度の低いガスの情報は他にもあります。中心核から上方向に向かっているジェットを見ますと,青くなっていることが分かります。上側のジェットが我々の方向とは反対側に向かうジェットだと考えられます。青くなるのは,周りの温度の低いガスによってジェットから放射される電波が吸収を受けているものと考えられます。ただし,吸収の様子から,温度の低いガス,と言って相対的に温度が低いだけで,十分高温でプラズマ状態にはなっているようです。つまり,3C 84中心核の周りをドーナツ状の低温プラズマのガスが取り巻いているようです。

 このようにVSOPの観測で,電波で明るく見えるジェットなどの構造ばかりでなく,活動銀河核の中心部の周辺の構造についても詳細な描像が得られました。

(国立天文台・亀野誠二)



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