No.210
1998.9

ISASニュース 1998.9 No.210

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宇宙輸送のこれから(7) 

スペースシャトルの再使用


稲谷 芳文  

 スペースシャトルはご承知のようにオービタと呼ばれる着陸する部分が飛行機のように繰り返し使用され,打ち上げの時に使われる外部タンクは使い捨て,固体ブースタはパラシュート降下による海上回収の後整備して再使用という全体としては部分的な再使用のシステムで,それまでのアポロのカプセルのようにして帰還させる使い捨てのシステムを革新して新しい輸送の形態をもたらすと期待されました。この連載で議論するような将来のシステムの立場でこれを見ると,下の絵を見ると明らかになるのですが,元々の計画では10日程度の打ち上げ間隔で運用することが考えられていました。この時の地上に帰ってから次の飛行に至るまでの整備作業は,飛行機のそれに近いイメージで考えられていましたが,実際にやってみるとこれは右の図のようで,重傷患者が集中治療室に入っているというイメージになってしまいました。このために1機当たりの飛行間隔は平均すると150日から200日の間というのが最近の実績です。これは主として機体の表面に取り付けた耐熱タイルの点検や交換,エンジンの整備に時間がかかることが主な理由と言われ(エンジンの交換も結構頻繁に行われていて平均の飛行間隔はもっと長い),整備が終わった機体に対する検査は新品に対するのと同じくらいのレベルで行われているということです。飛んでいるときはなかなかかっこよいのですが地上ではこのような情けないことだったということです。このことが部分的な再使用という輸送コスト低減のポテンシャルを食いつぶしてしまって,シャトルの運用コストは結局高いものになっていると批判されるもととなっています。

 将来の輸送システムとして提案されているスペースプレーンでもロケットSSTOでも,完全な再使用という意味では目指すところは同じです。今の技術レベルでは一段で軌道速度に達してそのまま帰ってくるという,飛行機のような運用ができる機体を作るには技術的な課題が色々と挙げられていますが,これまでこの連載で紹介してきた技術的な課題に加えて,上のスペースシャトルの例のように,性能の意味で宇宙との往復ができるシステムを構築したとしても,経済性の要求されない実験機はよいとして,実用の機体では使いやすいとかいつでも行けるとかの本来の意味での再使用のメリットが生かせるシステムを構築しないとなかなか世の中の批判に耐えられないでしょうし,宇宙輸送を質的に変革するという意味の将来の輸送系という看板も色あせてしまいます。1回飛ぶと次は100日後などというスペースプレーンはたぶん世の中には受け入れられないでしょう。

 アメリカでは今「ACCESS TO SPACE STUDY」という名の下にシャトルの後継の輸送システムとしてロケットエンジンを使った完全再使用SSTOの開発研究が行われています。実際に実用になるのはしばらく先ですが,ここでもやはり機体のターンアラウンド時間は1週間ということが要求として設定されています。はじめに述べたスペースシャトルを運用してみた経験が強く反映されていることはいうまでもないでしょう。ただ既に触れたようにシャトルもはじめの目標は同じくらいだったのに余りこれと変わっていないのは,シャトルが飛んでから20年近くにもなるのにちょっとしょぼいと思うか,技術的に難しいんだからと思うかは各人の意識の問題です。本当の最終的な目標はどの辺りに置くべきかは,議論の分かれるところですし,どこまでの未来のことを視野に入れて話をするかで要求が違います。技術的に可能かどうかと言うこともさることながら,例えば飛行機のように毎日飛ぶあるいは1時間のターンアラウンドで次の飛行ができる,というのは行き過ぎかどうか,今の衛星需要ではこんな要求にはなりませんから,この辺りは何を運ぶのかという議論とセットでないと結論がでません。

(いなたに・よしふみ)



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