No.209
1998.8

ISASニュース 1998.8 No.209

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宇宙輸送のこれから(6) 

材料の進歩


八田 博志  

 将来の輸送システムでは,例えば機体の大部分をコンポジット材で構成できれば大幅な性能向上が実現でき,捨てるところのないロケットができると言われ,材料技術に対する期待は大きい。航空機でも複合材化は進められているが,低速のグライダなどを除けばオールコンポジットの機体はまだ実現していない。まして宇宙を往復する飛翔体では飛行の環境はさらに過酷で材料技術に対する多くの研究課題がある。一般に材料開発は足が長いため即座にプロジェクトに対応するのは難しく,筆者らの研究室でも宇宙研のプロジェクトに貢献するところが少ないことが悩みの種である。それでも材料技術が宇宙開発の重要な基盤技術の一つであることはいうまでもなく,複合材料をキーワードにした研究開発に取り組んでいるところである。

 宇宙用の複合材料技術で,最近注目を集めているのは,再使用型ロケットの水素燃料あるいは液体酸素タンク用の極低温CFRP(炭素繊維強化プラスティックス)である。CFRPは,図に示すように,比重が1.5程度と軽く強度・弾性率が極めて高い材料として知られており,これまでにも航空機用あるいはテニスラケットや釣り竿等のスポーツ用の軽量高強度構造材料として用いられてきた。宇宙用としても人工衛星用の構造体やアンテナ用等に欠かせない材料になっている。しかしながら,CFRPを宇宙推進機に使おうとする機運はなかなか生まれてこなかった。宇宙研のロケットを見ても,M-Vになって初めて,CFRP製のノーズ・フェアリングが採用され,段目のモータケースもCFRP化された。比強度の高さは分かっていながら宇宙輸送機用の材料としてCFRPがあまり用いられなかった主要な理由は,強度のばらつきが大きく信頼性が低いことにあるが,この欠点も最近では大幅な改良の方向にある。再使用型ロケットの開発でCFRPが特に注目を集めるようになった理由は,単段ロケットであるため全ての部材に極限的な軽量性が要求される点にある。これまで,液体水素温度でのCFRPの使用実績は極めて少なく,耐熱衝撃・耐熱応力性を確認するための研究が世界各国で行われている。航空機用のCFRPの開発時には,靭性あるいは破断伸びの向上が要求されたが,再使用型ロケットでは低温環境における耐クラック性の改善が求められている。

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 材料技術で最近話題を集めたものの一つに耐熱複合材料の開発がある。通産省でもスペース・プレーン用の耐熱材料の開発を目標に,昨年まで8年かけて2000℃で長時間使用可能な材料の開発を行ってきた。最終目標の達成はできなかったものの,このプロジェクトで耐熱温度の向上と高強度化を実現した。またスペース・プレーン用エンジンとして開発が進められているAir-Turbo-Ram-Jetエンジンのタービンおよびその取り付けディスク部の開発が進められている。後者の部材は1700℃での使用が予定されており,高温・高強度・耐酸化性が本格的に要求される(スペースシャトルのノーズ・コーン等の既存の使用例では強度に対する要求は高くない)初めての耐熱構造部材といえる。

 このように複合材料は従来の金属材料に比べて多くの性能向上に寄与するポテンシャルを持っている。但し航空機に使用される場合に比べて再使用型ロケットなどの宇宙輸送システムでは遭遇する機械的,熱的環境は厳しく,その実力を十分に引き出し実用に耐えるものに完成させるためには実際の飛行運用の機会を含めた新しい検証計画が不可欠である。また例えば実用型のSSTOなどではその規模のメリットを生かすため直径10mの複合材タンクなどといった大型の構造物に仕立てることも要求され,材料の性能のみならず大型構造物に構成するための技術や,製造設備の規模を越えたサイズも要求される。材料そのものの開発研究に加えて構造体を構成するための接合や補強,修理方法などといった実用的な観点での開発も重要な課題である。これまでの宇宙輸送の方法を変えるための耐熱や軽量化の目的で宇宙飛翔体に採用される材料開発の動機はとても大きい。一層の研究の活性化が望まれる。

(はった・ひろし)



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