No.209
1998.8

ISASニュース 1998.8 No.209

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クリスマス島の紹介

藁品 正敏    

 キリバス共和国のクリスマス島にある宇宙開発事業団(NASDA)移動追跡局で,M-V-3(PLANET-B)ロケットのの追跡がNASDAの協力を得て行われました。私は,平成1022日から日まで出張してまいりましたので,その見聞録をお話します。

 ハワイのホノルル空港から南へジェット便で約時間,赤道直下のクリスマス島のCassidy空港に到着します。クリスマス島への便は,週1回往復,ホノルル時間で火曜の早朝7時にホノルルを離陸しす。他に,物資輸送便として毎月2回の便があります。クリスマス島は珊瑚礁の島です。海岸の砂浜は,珊瑚の風化した白い砂からなり,島は椰子の木でおおわれ,無数の礁湖(lagoon)が点在し,土地面積は東京都の23区程度です。人口は約3300人,島民は年間を通して家の内外を問わず裸足で生活し,男はシャツと短パン,女はワンピースあるいは,ブラウスとスカートといった服装です。私も男スタイルにビーチサンダル履きです。発展途上国に共通する子供人口の増加が見られます。漁業,ココナツの実,椰子の実を出荷して島民は,生計をたてるか,あるいは,政府,公共機関に従事するかして生活しています。クリスマス島には病院がないので病人が発生すると船を借り,食料,ガソリンを積み込んで約週間〜10日かけて首都のタラワ島まで行きます。クリスマス島には,いくつかの集落が点在し,集落ごとにカソリック教会,集会所があります。島には,小・中学校がありますが集落ごとに学校があるわけではなく,高等学校はタラワ島に,大学は,さらに遠いフィジー島に行きます。

 かつて,米国が原爆実験を行うために機材搬入用のイーオン空港(Aeon Field)がクリスマス島に1958年に建設されましたが,現在は,全く使用されず野ざらしになっています。イーオン空港は,鳥(軍艦鳥)の楽園と化し,この時期,産卵の季節を迎え,何万羽と乱舞し,さながらヒッチコック監督の映画「鳥」を想起させるような恐怖感を覚えます。この空港は,日本版スペースシャトルHOPE-Xの着陸に使用される可能性があり,その計画がNASDAによって検討されています。

 クリスマス島のホテルは,島で軒,空港から約7kmの所にあります。ホテルの寝室にはダブルベッド,冷房,冷蔵庫(日本のサンヨー製),洗面所,バスルーム,水洗トイレが完備されています。ただし,バスルームには,バスタブはなく塩分をいくらか含んだ冷水のシャワーがあります。水道水も塩分があり,飲料には適しませんので塩分を浄化した水が用意されています。ホテルの朝食は,パン,卵,ベーコン,コーヒー,昼はサンドイッチ,夕食は洋食(サラダ,ロブスター,肉,ご飯など)です。赤道直下でも,夜となると涼しく冷房は不要となり,外では,地中から無数の椰子蟹が現れて歩き回っています。このホテルから約11kmいった所にNASDA追跡局があります。島の交通手段は自動車のレンタカー(70ドル)だけです。車は左側通行,トラック型の中古車が多く,日本製の車もあります。日本の関西方面から中古車が2〜3ヵ月1回程度の船便でキリバス共和国の首都(タラワ島)に荷揚げされ,再び,クリスマス島に運搬されます。道路には電柱,信号機といったものは,まったくありません。日本のようなスーパーマーケットもありませんが,2〜3軒の小間物店があり,支払いはオーストラリア・ドルのキャッシュで行い,クレジットカードを使うことはできません。ホテルの支払いも同様です。クリスマス島の銀行での換金率は,USドルのキャッシュよりも旅行小切手の方が良いようです。銀行はロンドンという港の一軒長屋の一隅にあるのみ,郵便局もその長屋にあります。

 クリスマス島の海岸に面した北端にNASDA追跡局があります。ロケット追跡に大変,お世話になったことをこの紙面を借りて厚くお礼申し上げます。これから追跡局についてお話します。この島は,ロケットの打ち上げ経路にとって好都合の位置にあり,しかも,最小限,物資の輸送が可能,飛行場,港があるということから,追跡局が昭和51年に設立されました。当時,コマンド,レーダー,テレメトリーによるロケットの飛行安全が任務でしたが,現在,ロケット・テレメトリーのVHFUHF受信だけとなっています。他に,局の設備として,連続稼働可能な自家発電(250kVAのディーゼルが台),インマルサットの通信設備,コリメーション設備があります。1回の打ち上げで約週間の作業が行われます。追跡局で日本と同じ食事をするとなると食料の確保が大変です。NASDA局では地下水を汲み上げているので塩分もなく水は飲料に適していますが,すべっての浄化した飲料水,食料をホノルルから調達します。ラジオ,テレビ放送がないので,出張者は各自ビデオテープを三巻,持参することになっています。NASDAから私にお願いされたことがありました。それは,NASDAにデータ取得を依頼される時,技術的には可能ですが,少なくとも半年以上前に依頼していただかないと事務上の契約が困難となる恐れがありますとのことでした。ロケット追跡時の様子については別の機会にお話します。

(わらしな・まさとし)


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