No.206
1998.5

ISASニュース 1998.5 No.206

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宇宙輸送のこれから(3) 

  スクラムジェットエンジン  

八柳信之

 スペースプレーンでは離陸,大気中の加速上昇推進,及び宇宙空間で作動するロケットエンジンの機能を備えた複合エンジンの実現が必要となります。とりわけ,スクラムジェットは複合エンジンの中で最も重要な役割を担うものですが,未だ世界的にも実証されたエンジンではありません。このエンジンについて技術課題と研究現状などについて説明します。

 スクラムジェットはラムジェットの一種で,エンジン内での燃焼を超音速状態で行わせるもの,すなわち Supersonic Combustion Ramjet の頭文字をとってSCRAMジェットと称するものです。一般にラムジェットは高速飛行時に吸入した空気を空気取入口とディフューザで減速させ発生する動圧(ラム圧)によって空気圧力を高めます。さらに空気取入口部に発生する衝撃波を利用して圧縮効果を高め,この圧縮された空気流へ燃料(多くの場合水素)を噴射して連続燃焼させ,その燃焼ガスをノズルから大気中へ膨張,加速させて,推進力を発生させます。しかし,飛行マッハ数が高くなると亜音速まで減速して圧縮することはエンジン内の温度を著しく上昇させ,燃焼生成物の解離を生じエネルギー損失が増えます。このため超高速作動領域では空気流の減速,圧縮を部分的にとどめ超音速流中で燃焼させるスクラムジェットが飛行マッハ数を境に亜音速燃焼ラムジェットに比べて高い性能を発揮することになります。このスクラムジェットエンジンを実現する上で最大の技術課題は,大気中を超高速で長時間加速飛行することによる空気加熱に耐えられる高温高張度かつ超軽量材料の実現を前提として,「スクラムジェットははたして幾つのマッハ数までの加速が可能か」と言うことを実証することが最大の命題です。

 これまで米,ロ,仏において,地上試験や飛行試験が行われて来ましたが未だゴールは示されていません。ここで特に記述しておきたいことは,地上風洞試験では高温空気を吹き出す特殊なエンジン燃焼風洞が用いられますが,可能な模擬飛行マッハ数は約が上限で,それを越えるマッハ数には衝撃波を利用して空気のエンタルピを高める高温衝撃風洞が用いられることになります。しかしその性質上試験時間は数ミリ秒と極めて短いものであり,従ってマッハ以上での実証には飛行試験が是非とも必要になります。

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 ここで欧米およびロシアの現状を簡単にふれてみます。米国ではスペースプレーン計画(NASP)の要であった技術飛行実験機(X-30)が中止のやむなきに至りましたが,X-30に搭載予定エンジンの1/3サイズモデル(これまで試験されたもので最大級)による地上試験を1994年にNASAラングレー研究所で行い(マッハ数6.8)設計値を上回る推力発生に成功しています。同年,衝撃風洞を用いたマッハ数14の試験にも成功しています。またエンジンと機体を統合化して,その推進性能を明らかにするためスクラムジェットエンジン付き実験機の飛行実験計画(HYPER-X)を1997年からスタートさせました。ヨーロッパでは主にフランスが積極的にスクラムエンジンの研究開発計画(PREPHA)を進めており,1991年にはスクラムエンジン単体の飛行実験をロシアのミサイルを用いて実施しています。またロシアは米国に匹敵する技術を有していると言われ,近い将来マッハ数15の飛行試験を実施する計画(IGLA)を持っています。

 この様な流れの中で我々の研究室では最大試験時間60秒,模擬飛行マッハ数までの吹出し式エンジン燃焼風洞(RJTF)を1994年に完成させました。これに合わせて「研究用スクラムジェットエンジン」の試作を行い,現在マッハ数の試験を進めています。写真は水冷式スクラムエンジンで全長は2.1mです。さらに高いマッハ数での試験が必要となりますが,マッハ数15に対応する試験設備として「高温衝撃風洞」の整備を進めており,1999年からスクラムエンジンの試験を進め,性能の検証を行う予定です。


(航空宇宙技術研究所 やつやなぎ・のぶゆき)



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