No.205
1998.4

ISASニュース 1998.4 No.205

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宇宙輸送のこれから(2) 

スペースプレーン 大気圏の新たな活用と挑戦

航空宇宙技術研究所 舞田正幸

 前回の解説で述べられたように,地上から軌道への輸送が今後の宇宙開発の進展の大きな障壁であると非難されては困りますので,現行の輸送システムの問題点や反省を基に,経済性の追求と運用性の向上等の要請に応えるべく,次世代宇宙輸送システムの実現に向けたプログラムが推進されています。航空宇宙機/スペースプレーンは,こうした21世紀の地球と宇宙を繋ぐ架け橋となる新しい宇宙輸送システムのコンセプトです。
スペースプレーンは,宇宙輸送コストの低減のみならず,我々の誰もが容易に宇宙にアクセスできるように,高い信頼性と安全性を兼ね備えた有人輸送システムを目標としています。このためスペースプレーンは,従来のロケットのような使い捨て部分を無くし,くり返し何度も使用する「完全再使用性」と航空機のような運用方式をその設計の基本としています。


 スペースプレーンの特徴は大気の積極的な活用にあります。帰還,再突入の必要性とともに,上昇中も大気圏を通過する間は主翼の揚力で機体重量を支えることで,ロケットと異なり小さな推力で上昇できるなど推進システムの負担を軽減する航空機のような飛行方式,形態をとります。また,大気中の空気を有効に取り入れて推進エンジンの酸化剤として利用し,その性能を大幅に向上させ,またロケットエンジンに必要な液体酸素に代表される重い酸化剤を極力減らすことができる,エアブリージングエンジンと呼ばれる新しい推進エンジンを用います。ロケットの場合は空気は単なる邪魔者ですが,スペースプレーンの場合はこれを積極的に利用し空気のあるところで加速を有効に行おうとするものです。軌道速度に近いところまでこの方式で加速するにはスクラムジェットエンジンと呼ばれる革新的なエンジンが必要で,さらに地上から連続的に加速するには複数の形式のエンジンが必要とされます。図に示した例はスクラムジェットエンジンと空気液化サイクルエンジン(LACE)を機体と一体化した単段方式のスペースプレーンと推進系の模式図です。これによって航空機のように滑走路を水平に離着陸し,機体全体がそのまま宇宙に行って再び地球に帰還することが可能となります。また可能な限り航空機の設計,インフラ等との共通性を持たせることにより運用性の向上を図ることを考えています。

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 こうした大気あるいは大気中の酸素を積極的に利用した「空力軌道」を飛行する宇宙輸送システムのコンセプトは決して今に始まったものではなく,1928年には既にオーストリアの Eugen Sanger により研究され,またこの鍵となる極超音速エアブリージングエンジンについても Antonio FerriFred Billing らにより1960年代にかけて先導されてきたところです。その後,弾道形態のロケット,スペースシャトル等の開発の中で埋没してしまいますが,1986年スペースシャトル・チャレンジャーの悲劇的な事故以来,次世代システムの要請の中で研究活動が再開されるところとなります。今日の先進複合材料等の技術革新も含め,スペースプレーンの実現がもう一歩のところまで来るに至っています。スペースプレーンは21世紀に向けた技術チャレンジではありますが,それはもはや決して不可能な夢ではありません。着実な技術開発の積み重ねがそれを現実のものとします。国内の関係機関はもとより,諸外国とも力を合わせてスペースプレーンの実現に努力し,21世紀の宇宙新時代の展望を拓いていきたいと考えています。

(まいた・まさたか)



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