No.203
1998.2


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S-310-27号機,バイパーロケット,気球を使ったオゾンキャンペーン


 オゾンを総合的に理解するために,1月25日にまず12時03分に高高度気球が放球され,14時,16時に米国製マイクロロケット,バイパー4,5号機,17時35分にS-310-27号機が発射された。このうち気球については別稿に譲るとして,S-310-27号機ではオゾン密度そのものとオゾン密度に影響していると思われる酸素分子,原子からの大気光および水蒸気密度を光学的方法で観測した。D層の正負イオン密度,E層のプラズマ密度,温度も同時に測定した。またロケット最高高度付近でロケットエンジンを切り離し,再突入環境の計測を行った。
 高度約105km付近で放出された厚さ約1ミクロンのアルミ箔(チャフ)5000枚を地上からレーダで追跡するバイパーロケットによる実験はアルミ箔の放出を確認できず,超高層の風の直接観測はできなかった。しかしオゾン密度の高度プロファイルへの力学の影響は,近くの郵政省山川電波観測所の大型中波レーダによる風の同時観測から研究できるであろう。
 これらロケットによる実験に合わせて,東北大学,立教大学,および郵政省通信総合研究所がそれぞれ,内之浦,山川,京都で大気光観測を,京都大学,通信総合研究所がMUレーダ,大型中波レーダで超高層風の観測を,国立環境研究所,名古屋大学がライダーおよびミリ波ヘテロダイン分光計によるオゾンの観測を行った。因みに一日に同時に3機のロケット発射は昭和42年以来30年ぶりである。またロケット実験を中心にこれだけ多くの研究者,研究機関が観測を行ったのは,1990年1,2月に行われたダイアナキャンペーン以来である。
 以上まとめるに,チャフの追跡ができず今後に問題を残したが,KSC職員の更なる技術の研磨に役立ち,また,たまたまS-310-27号機ではこれまで数例しかないスポラディックE層中の電子温度を得た。地上観測では,仙台,京都では違うパターンの大気波動のイメージを得るなど,実り多いキャンペーンであったと思っている。観測側の世話人として所内外の関係各位に心からの謝意を表する次第である。

(小山孝一郎)

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平成9年度第3次大気球実験


 平成9年度第3次大気球実験は,平成10年1月21日から1月27日まで鹿児島宇宙空間観測所において実施された。放球した気球は,BT5型1機であった。
 本実験は,地上観測,大気球,バイパーおよびS310ロケットを用いて,地上から高度110kmまでのオゾンの総合観測を目的とした実験の一環として行われた。
 BT5-15号機は,東北大学が開発した太陽紫外光の吸収を利用した光学式オゾンセンサーを用いて高度42kmの成層圏上部までの冬期オゾン濃度高度分布と時間変化の観測を目的として行われた。BT5-15号機は平成10年1月25日12時03分に鹿児島宇宙空間観測所M台地より放球され毎分300mの速度で正常に上昇し,高度42kmで水平浮遊状態に入った。その後,気球は南南西に進行しつつ,バイパー4号機・5号機およびS310-27号機が打ち上げられるまで観測を行った。全飛翔中光学式オゾン観測器は正常に動作し,上昇中のオゾン濃度高度分布,3時間の水平浮遊中における太陽高度角の変化を利用した一定高度でのオゾン濃度変化の観測に成功した。
 気球放球時には,地上風が不安定の中,鹿児島宇宙空間観測所職員および観測ロケット実験班の皆様の多大な援助のもと気球を無事放球できたことを心より感謝します。

(山上隆正)

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M-V-3号機の計器噛み合わせ試験始まる

 M-V-3号機の計器噛み合わせ試験が宇宙研相模原キャンパスの構造・機能試験棟で1月7日から開始された。「2号機を打ち上げていないのに3号機?」と訝るむきもあろうが,LUNAR-A衛星の打上げ延期に伴い,PLANET-Bを打ち上げる3号機が2号機よりも先に飛翔することとなったものである。1月12日には全員打ち合わせ会が開かれ,机上配線チェックなどの作業に入ったが,折しも鹿児島で始まった観測ロケットの打上げオペレーションに殆どの要員を取られるので,1月16日で一時中断し,本格的な再開は打上げ終了後の2月9日からとなる。計器噛み合わせ試験では,各搭載計器,計装配線,及び姿勢制御のアクチュエータの役割を果たすTVC,SJ,SMRC装置などを繋いだ各種動作試験や,第3段計器部の振動試験等が行われ,撤収も含めて3月3日に終了する予定である。相模原での試験はこれで終了し,3月10日からは,鹿児島で第1組立オペレーション(従来の総合・地上系オペレーションを簡素化したもの)が開始される。今の所,大きな問題もなく,時間的余裕もあることから,若干のミスが発見されても冷静に処置を施す班員達である。

(小野田淳次郎)

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PLANET-B総合試験


 昨年10月27日より始まったPLANET-Bのフライトモデルの最終組立てと総合試験が,宇宙研の飛翔体環境試験棟で進行中である。
 PLANET-Bは,宇宙研が,今年夏期にM-Vを使って打上げを予定している火星周回探査機である。主なミッションは,火星上層大気と太陽風の相互作用を調べることにあり,この目的で14の科学観測機器を搭載する。一方,我が国初の惑星ミッションであり,宇宙研が,今後,月・惑星の探査を進めていく第一歩として,工学的にも重要な意義を持つ。搭載機器は,小型・軽量化,高性能化,低消費電力化の極限を狙ったものばかりで,開発に当ってきた担当者達は,最終フェーズの組立ておよび試験を迎え,長年丹精込めて手がけてきた芸術作品に仕上げの一筆を入れる心境である。
 写真は,軌道・姿勢制御用の推進系のタンクとノズルを組付ける作業の様子である。制御用の推進系は,燃料も含めて340kgほどの重量で,探査機全体540kgの6割以上を占め,探査機の大きな構成要素の一つである。
 試験は5月まで続き,その後,内之浦のオペレーションへとつながっていく。

(中谷一郎)

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MUSES-C探査機用イオン・エンジン

 宇宙科学研究所の電気推進工学部門では,科学探査機MUSES-C(ミューゼス・シー)に搭載するイオン・エンジンの耐久試験を昨年2月から実施している。試験は特殊実験棟の専用真空装置で行われており,昨年末でおよそ6000時間の連続運転を経過し,現在も引き続き目標の1万3000時間を目指して試験を続行中である。


 イオン・エンジンは直流アークジェット・エンジンや電磁プラズマアークジェット・エンジン等とともに電気推進機と呼ばれる宇宙用エンジンの一つである。よく知られている燃焼エネルギを利用した固体や液体ロケットエンジンとは違い,電力を推進エネルギに変換する。エンジン室内でプラズマを作り,静電力によってイオンを加速して推力を得る。特徴を一言で表わすならば,大推力は出せないかわりに燃費が良い。したがって,燃料の重量を大幅に軽減できる。
 2002年に打上げ予定のMUSES-C探査機は,小惑星へ2年かけて到着し,表面のサンプルを採集し再び2年かかって地球へ持ち帰ろうという夢の計画である。この宇宙旅行にイオン・エンジンが採用された。今までにも宇宙開発事業団の技術試験衛星「きく4号」,「きく6号」,「コメッツ(COMETS)」,米国の「SERT」シリーズ,「ATS」シリーズの衛星や「ディープ・スペース−1」などにイオン・エンジンが搭載され,あるいは搭載が予定されている。これらのイオン・エンジンではプラズマを生成するのに放電を利用しているため放電電極などの耐久部品が損傷するという欠点があった。宇宙科学研究所のイオン・エンジンでは,独創的な電極を使わないマイクロ波放電を採用することによってMUSES-C探査機の4年以上にわたる宇宙航行中の連続運転を保証しようと挑戦する。写真は運転中のイオン・エンジンである。

(清水幸夫)

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モータ着火内圧上昇率抑制試験

 試験名を一読してその目的・内容を理解した方は相当の事情通である。本試験はM-V型ロケット5号機から採用される新型の第2段固体ロケットモ−タ;M-25モ−タに備えたものである。M-25モ−タは国内初の高L/D比高性能炭素繊維強化プラスティック製ケ−スを用い高圧燃焼による高性能化をはかるモ−タであるが,モ−タ着火時の急激な圧力上昇によりケ−スが伸長し衛星に悪影響を及ぼす懸念がある。そこで,試験名にある通り,着火時の圧力上昇率を抑制することになった次第だが,ここまで読んで正しく理解した方もやはり事情通である。
 なにはともあれ,数種類の方策の中から,信頼性・価格の両観点から推進薬グレイン表面の一部に燃焼抑制材を施す方策を最善と考え,選択した。燃焼抑制材には推進薬との相性から,推進薬の燃料兼結合材に使われているHTPBゴムを採用し,また作業性からカーボンブラックの微粒子を配合した。駒場で行われた基礎試験で得られた知見をもとに,抑制材の厚み・パターンをいろいろと試し,圧力上昇率との相関を確認するのが今回の試験の目的であった。試験には直径160mmの丸孔内面燃焼型のロケットを用い,計7回の燃焼試験を行い,非常に良好な結果を得た。
 12月の能代実験場はさすがに寒さが厳しく,1日平均2回の試験をこなすのがやっとだった。当初は潤沢とも思えた実験班員数だったが,終わってみれば適切な規模との感をもった。また今回の試験は計測班の重鎮今澤氏にとって最後の能代での燃焼試験ということで我々にとっても強く印象に残る試験であった。

(堀 恵一)



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月探査連絡会について

 1月19日に,宇宙研,宇宙開発事業団,国立天文台の3機関のメンバーで構成される月探査連絡会が,浜松町の宇宙開発事業団で開催された。月探査連絡会は,宇宙研と宇宙開発事業団の共同ミッションである月探査周回衛星(SELENE)計画を実行するプロジェクトチームのお目付役を果たすと同時に,プロジェクトチームでは解決困難な問題について調整を行う役割を持っている。SELENE計画の準備が始まってからは,ほぼ半年に1回開催されており,今回が4回目である。今回は昨年末の内示で,来年度からSELENE計画の開発研究に着手できる見通しになったことを受けて,これまでの準備状況をレビューし今後の進め方を議論するために開催された。内示に至るまでは厳しい局面もあったことから会議はほっとした雰囲気の中で行われた。席上,三浦理事よりこれまでのプロジェクトチームの主要な活動の報告と,特に技術的にチャレンジングな要素の多い着陸実験の成功確率を高めるための今後の方策が述べられた。また鶴田教授からは,SELENE計画は10〜20年のオーダーで世界のサイエンティストが利用できる本格的な月科学の基礎データを取得することを目指すとの考えが示された。
 本連絡会では今後とも機関間の密接な協力のもとに月探査周回衛星プロジェクトを推進していくことが改めて確認された。

(佐々木 進)

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ISAS/NASDA連絡会

 年に一度のISAS/NASDA連絡会が1月19日NASDAの芝公園厚生施設において開催さた。宇宙研からは「はるか」を初めとする現役の衛星の現状報告,事業団からTRMM,きく7号の打上げと「みどり」の不具合も含めた現状報告があった後,共同研究の進捗状況と今後の計画について活発な議論が行われた。特にSELENE計画では,駒場の連絡事務所で腹蔵無い意見のやりとりが行われ,表面的ではない真の協力関係が育ちつつあるとの評価がなされたのが印象的であった。またH-IIA-1号機のピギーバックとして予定されている高速再突入実験機(DASH)について宇宙研から概要説明の後,OREX,HYFLEX等再突入実験機の経験を積んだ事業団から貴重なコメントがあった。なお余談であるが,事業団五代副理事長から,これまでNASDAでは人事異動が早く,プロジェクト担当者が替わり過ぎるとの批判があったが,この度PM(プロジェクト・マネージャー)制度を採り,夫々のプロジェクトを最初から最後まで見るようにした旨,紹介があったのに対し,我が方からは,MUSES-C計画では探査機が地球に帰還するのが2006年であり,本連絡会の宇宙研出席者は誰一人ミッションを最後まで見届けるPMにはなり得なかったことが暴露され,笑いの内にも歳を感じつつ,閉会となった。

(上杉邦憲)

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宇宙学校


 1月10日(土)東京大学駒場キャンパスでの宇宙学校が開かれました。1時限,2時限の授業はそれぞれ,‘宇宙の謎を探る’と題してX線と電波による宇宙の観測,‘惑星と生命’と題して我々の太陽系と無重力でのかえるの話,そして3時限目は一転して工学に移り,‘人工衛星とロケット’,‘未来の宇宙開発’と授業は進められました。
 8日(木)に降った大雪による出足の悪さが懸念されましたが,一日中,前の席で授業を受けた埼玉県の主婦,静岡県から友達と来た中学生,栃木県からバスをレンタルしてきた先生と生徒など,今年も相変わらず盛況でした。6人の教官が10から15分間の素晴らしい先端の研究を披露した後の質問の時間はたちまちに過ぎてしまいます。生徒達の目は生き生きと輝いて話に聞き入り,そして質問します。残念なことに受けられる質問の数は限りがあり,折角一日を費やして来る子供達のために今後アフターケアの時間を設けるなど配慮が必要でしょう。宇宙学校を見ていると,いわゆる理科離れがうそのようですが,一年一回の宇宙学校だけでなく,子供達の関心を継続させてゆくシステムを宇宙研として作る必要があるかもしれません。
 終わりに開催にあたり,特に細やかなご配慮をしていただいた東大教養学部,後援して頂いた世田谷区教育委員会,渋谷区教育委員会,宇宙科学振興会に謝意を表します。

(宇宙学校長・小山孝一郎)

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