No.194
1997.5

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2.1 ランチャ

 ロケットを実験場で全段組立て,打ち上げる設備を総称してランチャと言い,整備塔とランチャで構成される。M-Vは従来のM-3Sに比べ重量が2倍以上にも大型化し,既設ランチャでは容量不足のため,新設するか否か,関係者により大いに議論された。
 既設ランチャは,1982年にM-3S及びM-3Sロケット用として新設され,ハレー彗星探査機を含む10機のロケット打上げに使用されてきた。このランチャは宇宙研の豊富なロケット打上げ経験により得た技術を反映して,諸外国にも類例の無い独自性のあるユニークな「ガイドレール・傾斜発射」と云う打上げ方式を採用している。また,ランチャの設計仕様として,直径2.2m,重量100ォまでのロケット打上げ用に改修して使用可能なものとして開発整備された。


 前述の通り,ランチャを新設するか,あるいは既設のものを改修して運用するか,構想計画段階で関係者により鋭意検討・協議された。結論としては,新設すると費用が嵩むし建設スケジュールに無理が生じるのに対し,技術的な課題は多々あり大がかりにはなるけれども,費用と工期等でメリットのある既設ランチャ改修方式で対応する事とした。
 改修に伴う課題として「大型ロケットの組立作業性」「ランチャの俯仰能力不足」が挙げられるが,種々検討し,打開策を捻出して関係者と綿密に調整し,最適方法を選択した。Mロケット用発射装置全体を右図に示す。

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2.1.1 主要改修内容

【ロケットの収納と組立作業スペ-スの確保】


 ロケットの収納と組立作業面積の確保は,作業の安全性・信頼性の点から必要不可欠である。そこで整備塔の大きな柱に影響しない方法として,ロケット組立中心をM-3Sより海側へ500mm移動した。また,ランチャブームを大改造してブームを海側へ1m後退させた。これにより大口径のロケットを塔内に収納可能となり,周囲の作業スペースも十分確保できるようになった。ロケット作業床との関係を上の2枚の写真に示す。

【ロケット組立台の新設】

 M-3Sまでは,ランチャ上にロケットを垂直にし,組立て作業を行ったが,M-Vでは大幅な重量増加を伴い,ランチャが撓みの影響を受けて垂直姿勢の確保が困難となるため,専用のロケット組立台を新設して,全段組立完了後にランチャヘ装着する合理的な方法を採用した。ロケット組立中の支持状態を右図に示す。


【ロケット俯仰角設定仕様の変更】

 M-3Sではランチャの俯仰角を85゜〜65゜としていたが,M-Vでは,重量が大幅に増加したので俯仰角設定能力(油圧アクチュエータ最大出力400ォ)範囲内とするため,関係者と調整の上85゜〜78゜の仕様に変更した。
 その他,ロケット組立用天井走行クレーンの仕様を20ォから50ォに能力アップし,ノーズフェアリング専用の空調装置を新設した。

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2.1.2 改修工事

 ランチャの改修は,M-Vロケット1号機を1996年夏期に打ち上げることを前提にスケジュールが設定され,M-3S最終機(8号機)の打上げ(1995年1月)直後から現地工事を着工して,同年12月末に完工する必要があった。
 当時(1995年1月17日)は,ランチャ改修の担当メーカー三菱重工神戸造船所の本拠地神戸に於て大震災が発生し,現地着工時期を遅らせることも検討したものの,ランチャの完工時期が遅れる可能性があり,M-Vの打上げ延期にもつながる懸念もあったため,計画通り着工に踏み切った。
 この工事に従事された関係者の中には,自宅が全・半壊された方も数名おられたようである。同社の誠意ある姿勢に感動した。
 ランチャ改修の総仕上げとして,1995年12月にM-Vの実機と同じ形状のダミーロケットを使用して荷重試験を行い,ランチャオペレーションとして「ロケット組立作業性及びランチャセット操作性」の確認を主体に各種データを取得し,ランチャ単体としての信頼性・安全性の検証を行い,良好な結果を得た。

2.1.3 運用実績

 改修を完了したランチャは,翌年の1996年5月より,総合・地上・組立・フライトの各オペレーションを実施し,この間特別の不具合も無く終了した。打上げ後のランチャ点検結果については,大型化した排気フレームの高温高圧の影響でロケットに相当の損傷が懸念されたが,整備塔一階壁部(軽量コンクリート)が全面的に破損したほか,ランチャブームインシュレーション,ノーズフェアリング空調ダクト破損等が確認され,いずれも予想外に軽微であったと思われる。
 上記の如く改修により新装されたランチャは,従来の打上げで得た経験と実績を多く取り入れ,特に整備塔内でのロケット組立作業が能率良く行えることに原点をおいて改修整備した結果,M-Vロケットの各オペレーションに効率良く使用できるものとなった。このランチャも,着工してから換装・改修を繰り返しながら16年の年月が経過し,今後とも有効活用して行くための課題として,今回の改修で手を加えなかった電装系・ランチャ旋回系・油圧装置系等についても,機会をみて更新等の実施検討が必要になろうと思われる。

(橋元保雄)



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2.2ロケットの輸送
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