No.194
1997.5

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1.4   構造系の開発

1.4.1 主な構造要素

 M-Vロケットの構造は,モータケース,段間接手,後部筒,ノーズフェアリングに大きく分かれる。

【モータケース】

 M-Vは全てのモータに固体燃料を使っているが,それを入れておく容器をモータケースと呼ぶ。モータとは各段のロケットのことである。固体燃料はこの中で燃えてロケットの推進力となる高い圧力のガスを発生するので,モータケースは丈夫でなくてはならない。しかし,厚くすると重くなり打上げ性能を下げてしまうので,軽くて強い材料を使う必要がある。そのため,M-Vでは1段目と2段目のモータケース用に鉄を主とした合金を開発した。この合金製の直径1mmの針金は180Lのものをつるすことができる。この強さのおかげで,直径2.5mのモータケースの厚さはわずか5.8mm(2段目)しかない。3段目のモータケースは,その重さが打上げ性能に大きく影響するので,更に軽くて丈夫な,炭素繊維を樹脂で固めた炭素繊維複合材料(CFRP)を使っている。

【段間接手】

 段間接手とは各モータをつなぐ構造のことである。使い終わったモータを切り離す仕組みが備えられている。1段目と2段目をつないでいるのが1〜2段接手である。M-Vでは,1段目の切り離しと2段目の点火を同時に行うファイア・イン・ザ・ホール(FIH)という方法を採用している。そのため,この接手は2段目モータの燃焼ガスを外に逃がすために格子になったリングを下側に持つユニークな構成になっている(上図)。1段目を切り離すときには,開傘パネルの上端と下端の2カ所に巻き付けられた紐状の火薬(FLSC)で接手の金属を全周焼き切る。その後,開傘パネルが2段目のノズルとぶつからないように花びらのように開く仕組みになっている。
 2段目と3段目とをつないでいるのが,2〜3段接手である(中図)。この接手の上側は2つに分かれていて,外側はノーズフェアリングと結合される。内側はマルマンバンドと呼ばれる分離機構を介して3段目と結合される。マルマンバンドは,コマをいくつかつけた薄い金属のバンドである(下図)。3段目の下端とこの接手の上端は外側に張り出した形になっている。これを合わせてコマの溝をはめ込み,バンドを締め上げて接手と3段目を結合する。2段目を切り離すときは,バンドを切断して,接手に備えられたバネで3段目を押し出す。


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【後部筒】

 ロケットのしっぽの部分が後部筒である。M-Vの全重量140ォを打上げまで支える役目をしている。

【ノーズフェアリング】

 ロケットの頭の部分がノーズフェアリング(以下NF)である。その内側には人工衛星が収められ,発射のときや飛んでいるときの空気の流れによる力や熱,そして音から人工衛星を守る役目をする。M-VのNFは,アルミ箔で蜂の巣状に形作ったハニカムと呼ばれる板を,CFRP製の薄い2枚の板ではさみこんだサンドイッチ板で作られている。そのおかげで,長さ約9m,直径2.5mの大きさで,重さは約700Lしかない。このNFは左右2つの殻で作られていて,その殻同士及び殻とロケット本体とはたくさんの数のピンでつながれている。空気の影響がなくなる高さまで飛ぶと,ロケットを軽くするために,このピンの傍らに備えられた紐状の火薬で全てのピンを一瞬に切断し,バネの力でNFを左右に開いて切り離す。

【オプション】

 1号機では衛星を軌道に入れるために4段目としてCFRP製のキックモータを備えた。その他に,3段目とキックモータをつなぐ3〜4段接手,キックモータと衛星をつなぐ衛星接手がある。これらの接手はマルマンバンドを採用している。

(峯杉賢治)



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1.4.2 構造系の開発経緯
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ISASニュース No.194 (無断転載不可)