No.194
1997.5

コラム

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ヤマセミ物語

 小田川と広瀬川は郵便局脇の内之浦橋を合流点として出会い,わずか70m同伴しただけで内之浦湾に流れ込む。釣師だとすぐわかるのだが,河口周辺のこういう汽水域は,ルアー釣りに最適の漁場なんである。12月の組オペの休日,朝まずめの釣行がボウズに終わり内之浦橋までもどってくると,橋の上流で何かがドボンと飛び込んだ。おや?と目をやると,小魚をくわえた鳩ぐらいの大きさの鳥が川面を突き破って飛び出してきた。80円切手の絵柄,ヤマセミである。10年程前,「赤だしこそ味噌汁だ」と主張してやまない村上敏夫先生が,宿の普通の味噌汁を旨そうにすすりながら「河口あたりには,カワセミどころかヤマセミまでいるんですぜ」とつぶやいたのを覚えているが,実際に目にしたのは初めてのことだった。このあたりは,探鳥家にとってのまさしく聖域でもあったのだ。渓流の麗人カワセミに比べるとヤマセミは山賊風の出で立ちである。とはいえ,水中に飛び込んで餌をとる姿は実に勇ましく,また野生そのものの健気さにあふれている。ニワカ釣師はすぐに即興探鳥家に変身,毎朝毎朝いそいそと河口に通い,長期滞在のつれづれをなぐさめ,ストレス解消にしっかり努めたのであります。酒ばっかり飲んでたんじゃつまんないもんね。で,心配だったのがM-V-1打上げ時の騒音。双眼鏡を向けただけで移動してしまうほど神経質な野生には,あの凄まじい轟音はライフル以上の凶器になるのじゃなかろうか。
 祝酒が少々頭の隅に残る2月13日の早朝,本物探鳥家周東さんと内之浦橋にたどり着くと,おーっ,いたいた。われらのヤマセミは元気一杯ダイビングし,巧みに小魚を捕え,朝飯の真っ最中だった! ニワカ釣師は,今,せっせと双眼鏡を磨いている。

(前山勝則)



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