No.190
1997.1


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 SFUの運用管制に関する作業は1988年に始まった。SFUの運用管制において最も重要かつ複雑な部分がスペースシャトルによるSFUの回収である。まずは,この回収時の運用管制の方法についてNASAジョンソン宇宙センター担当者と協議を行うことから作業を開始した。

 回収時に行われる運用には,SFUとスペースシャトルが軌道を制御しながら互いに近づき合う「ランデブー」と,互いに近づいてからSFUをスペースシャトルの荷物室に収納するまでの「近接運用」の二つの部分に分かれる。さまざまな条件の変化により大きな計画変更がなされたことも何度かあるが,数年にわたるNASA担当者との協議の中で回収時の運用管制計画が固まっていった。この協議の結果に基づいてスペースシャトル搭乗員がスペースシャトルに持ち込む手順書(若田飛行士が飛行中ににらんでいたあのぶ厚い書類)や相模原運用センター(SOC)で我々が使用する手順書が作られた。

 このような運用管制計画の作成と平行して運用管制に地上で使用するシステムの開発も行われた。このシステムの最も大きな任務は,前述のランデブーを地上からの運用管制によって成功させることであった。このためには,日本国内の地上局だけではSFUと交信する時間が十分に確保できず,外国の地上局もSFUとの交信に使用しなければならないことが判明した。そこで,4ページ図4に示すような地上局を使用して運用管制を行うこととした。

 ところが,外国の地上局を使って人工衛星とリアルタイムに交信するのは宇宙研にとっては初めての経験である。また,宇宙研の従来の運用管制システムは,宇宙研の地上局を使うことが大前提となって開発されており,外国の地上局を使用して衛星とリアルタイムに交信するには大改造が必要になる。そこで,SFUにはSFU専用の運用管制システムを新たに開発することになった。

 このシステムでは,計算機のOSを UNIX で統一し,計算機間は LAN (イーサネット)で接続した。このシステムの開発を始めた当時は,UNIX LAN は日本の衛星の運用管制では使われた実績がなく,一部のメーカーはこれらの導入に激しく反対した。しかし,結局,UNIX LAN を使うことによって,従来は別々に開発されていたソフトウェアを統一的に開発することが可能になり,この試みは大成功であった。また,統一されたのはOSばかりでなく,3機関5社にまたがった関係者の心意気も統一された。

 さて,手順書が完成し,運用管制システムも完成したところで,次なる仕事は運用管制の訓練・リハーサルである。この訓練・リハーサルにおける最大の課題は,スペースシャトルの運用管制を行うヒューストン・ミッション管制センター(MCC)の管制チームとSOCの管制チームの連携体制の確立である。近接運用中は,スペースシャトルの管制はMCCが行うが,SFUの管制はそれと同時にSOCが行うからである。例えば,SOCがSFUにコマンドを送ることによってSFUの向きを回収に適した方向に変え,それを受けて若田飛行士がMCCの指示に従ってロボットアームを操作するというようなことが行われる。

 この両チーム間の交信手段は,ループと呼ばれる指令電話回線である。MCCとSOCとの間には数本のループが敷かれ,それぞれ各種の交信に使われたが,両チーム間の決定事項は,MCCのペイロード運用主任とSOCのフライトディレクターとが両チームを代表して話し合って決めるということにし,指揮系統の体系化を図った。この訓練・リハーサルの様子については,「訓練・リハーサル」に詳しい。

 訓練・リハーサルが終われば,次は本番である。本番中の出来事は「SFUプロジェクトを終えて」に詳しいが,SOCの管制チームも運用管制システムも十分に実力を発揮し,SFUの回収作業を無事終えることができた。ランデブーについては,スペースシャトルが一方的にSFUに近づくグランドアップ方式になったために,SFU側の作業は不要になった。しかし,元々はランデブーに備えて用意した外国の地上局も,ランデブーには使わなかったものの,それ以外の複雑な運用を行うときにはSFUとの交信時間を確保するのに大いに役にたち,国際協力の重要性を実感することができた。また,MCCチームとの連携プレーもほぼ完璧にこなすことができ,MCCチームがすぐ隣でいっしょに作業をするのとほとんど変わらない雰囲気で作業をすることができた。

 我々は,二つの宇宙機を別々の国で別々のチームによって運用管制するという体験をしたが,この貴重な体験を今後の国際協力にもおおいに活かしたいと思う。

(山田隆弘)


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