No.190
1997.1


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●部品選定

 部品の選定は衛星の値段や信頼性を決定する重要な項目である。SFUで使用する部品の決定に際しても色々な議論や紆余曲折があったが,回収を第一目的とするSFUの信頼性に係る部品の選定であるので,標準化や一括購入を実施して価格を押さえる努力が行われた。宇宙用電子部品の規格としてはNASDA規格,米軍規格のクラスB,同じくクラスSなどがあるが,高規格の部品はきわめて高価になる。そこでSFUでは米軍規格クラスBアップグレード(クラスB部品のなかから選別したもの)を採用した。これは当時の最先端の部品で,米国の衛星が同様の部品を選定した幸運にも恵まれ確保できる事となった。部品の検査は添付データ成績表だけに止まらず,多少でも気になる部品はわざわざ故障解析の専門会社で検査するなどの,選定に関係した方々の誠意にあふれたものであった。

●フレキシブル太陽電池パドル(SAP)

 筆者はフレキシブルな太陽電池パドルが先行研究によってかなりの段階まで進められていたものを偶然見る機会に恵まれた。その成果を栗木・名取両教授にも話して,日本最初のフレキシブル太陽電池パドルとしてSFUに採用されることになった。これは,2.7kW以上の発生電力,搭載機器に1.4kWを供給するものである。組み上げまでの振動・衝撃試験を始め,展開・収納試験等幾多の実績や欧州宇宙電源国際会議での討論も反映されたもので,それだけに軌道上での完全展開のモニタテレビの映像は感激の一語に尽きるものであった。このフレキシブルパドル技術はNASDAの通信放送技術衛星(COMETS)へと発展した。

 パドルを構成する太陽電池は一枚あたり2B×4Bの新開発のセル型ダイオードで,原子状酸素対策が施され,SFUの2面のパドルに合計28万枚が実装された。

●電源系サブシステム(バッテリー)

図13. 太陽電池パドル(SAP)の地上展開試験(USEF提供)

 SFUの日陰時の電力をまかなうバッテリーは,4台を並列にして構成されている。バッテリー一台あたりは密閉式NiCd電池(19AH)を32個直列構成したもので,日照時に太陽電池パドルで発生した電力をバッテリーに蓄え,日陰時,太陽電池パドルが電力を供給できない時も安定した電力が供給できるよう工夫されている。

 日本初の経験は,SFU回収時,SAPが収納され発生電力がなくなった軌道上最後の時,バッテリーからの放電電力だけでSFUを運用するという重要任務であった。NiCd電池電源は生き物で履歴や温度・電流・電圧で充放電サイクル寿命が決まるため,打ち上げ前の寿命試験を始め,軌道上の電圧/温度特性曲線に細心の注意を払うとともに,地上でも軌道上運用模擬試験を実施して回収に万全を期した。

 SFUの電池の選定は最も注意を払った点の1つである。最初以下の諸点を熟慮して,科学衛星で実績のあるNiCd電池とした。欧州での事例も勘案,重要部品を含め自国技術によることが打上げ希望時期を他国に左右されない点で必須と考えた。即ち

(1) 科学衛星開発の頭初より「根拠のはっきりした部品を使用しかつ故障の場合の原因究明を徹底させる」という方針の基に弾力的,実質的に対応した実績をもっている。

(2) システムから部品までブラックボックスを許さない態度で,問題発生時は原因究明に関し,すみやかに中立が工程内まで立ち入って専門家の衆知を集めて対応ができる。

(3) 先端的開発研究のため契約時または設計初期段階では予想できない状況変化で要求の変更が出現,しかも早急の試験や対応が必要となる場合が過去の経験上必ずある。

 一般に安全審査や軌道運用上からの要求変更は製品完成のずっと後で突然に起こることが多く,開発が長期を要するものだけに柔軟な対応の難しさを又痛感させられた。改めて関係者の熱意と忍耐に敬意を表したい。

(後川昭雄,宇宙研名誉教授,現東京工科大学教授)


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