No.190
1997.1


- Home page
- No.190 目次
- 新年のご挨拶
- SFU特集にあたって
- SFUプロジェクトを終えて
- SFUシステム
- SFU実験
- SFU運用
- 編集後記

- BackNumber

- SFU略語
- CDR
- CSR
- DSN
- EM
- JSC
- MCC
- PFM
- POWG
- SEPAC
- SFU
- SOC
- STM
- USEF
- NASA安全パネル
- STS-72
 SFUに関する事はなんでも引き受け,現場第一主義で仕事をしたつもりである。正式に「宇宙実験・観測フリーフライヤ」プロジェクトが始まったのは昭和62年4月であるが,「小型宇宙プラットフォーム」構想からは丸13年間かかわってきたわけである。「なんでも係」の第一歩は,当時の駒場キャンパス40号館熱真空試験室階段下にプロジェクトの部屋を確保する仕事から始まった。建設中の相模原キャンパスに要求すべく「SFU試験・整備棟」をイメージした建屋の図面を引いた。長さ100 mの大きさである。ヘリコプター輸送での搬出入を調査したが,機種,航空法など色々な制約で実現できないことが解った。

 次はスポークスマン役である。宇宙研の他プロジェクトとの調整や進捗状況の説明をするため会議に出席する。そのデビューは駒場キャンパス45号館1階会議室のチーフ会議で,緊張しながらSFUの説明をしたことを覚えている。プロジェクトを代表して所外への説明役も買った。その説明のために必要なものがパンフレットであり,アニメーションであり,ビデオ映画であった。イメージ・キャラクタに昭和初期の漫画の主人公「タンク・タンクロー」を使えるようその版権所有者である講談社殿や坂本直城氏にお会いして快く使用許可をいただいた。回収はNASAと協力作業になるので,SFUのロゴマークについてもNASAに負けないようにとの意気込みで作った。いま,そのロゴはケネディ宇宙センタのシャトル専用施設の壁に他のミッションロゴと共に貼られている。

図42. シャトル荷物室内のSFU
 その時その時の最新写真情報も非常に有効な説明材料であり,進捗状況の記録でもあるのでカメラマン役もやっている。今までに撮ったSFUに関する写真は優に一万枚を超えた。写真は着陸4日目のまだ湯気が上がっているぐらい直後にシャトル施設でシャトル荷物室のSFUを撮影したものである。

 SFUは日本屈指の大型衛星である。打上げ時の重量3,849L,打上げ時の包らく直径は約4.6mである。でっかいことはいいことか? 確かにそれだけの事はある。今までの衛星の常識をはるかに超え,組み立て作業などでは,もちろんクリーン衣に身を包んではいるが,衛星の上に何人もの人がどかどか上がって作業をしている。設計思想の通り,もはや軌道設備である。初期設計の積算重量は4.1トン,目標重量から100L超過している。全体重量の割合からすると2.5%である。しかし重量軽減のための努力は果てしなく続き,打上げ重量は3.85トンになった。陰で泣いた人もいるという。この寸法の大きさに苦労もした。何と言ってもちょっとやそっとでは動かない。江戸時代の関所通過のようにあちこち通行手形が必要だ。コンテナに収容すると直径5m,高さ3.6m,日本の道路事情に合うとは言い難い。大きさから言えば新幹線や橋脚部材の輸送などいくらでも大きいものが有るには有るが,環境条件が全く違う。基本的には水路輸送,可能なかぎり陸送は避ける。輸送担当としては「秋刀魚とSFUの関係について」も書けるがまたの機会にする。

 さらにSFUがユニークな点は,回収に伴い輸出,輸入の手続きが発生することであった。人工衛星は輸出貿易管理令が明記する安全保証貿易管理関連貨物の一つである。結果的に日本で初めてのケースになるため霞が関の関連省庁始めあちこちへお邪魔して説明を行い,多大の協力をいただき無事打上げ,再輸入することができた。シャトルに積み込む小さな旗を送ろうとして日米繊維摩擦の一端を垣間見たりもした。

 NASAの担当者やフライト・クルーの会議が開かれるときには総務係に変身した。テーブルを歓迎を表す手作りの小旗や花で飾り,コーヒー・ブレイクの準備もしたが「サンキュー」の一言で早起も酬われた。自己紹介の機会があれば「 I am the secretary-general of the SFU project.」と大見栄を切った。

 SFUの成功の陰には大勢の方達の努力が有ったことは今更言うまでもない。汗と涙と,時には血を流す努力を払った現場の方々に深く敬意を表する。まもなく一区切りをつけるプロジェクトである。

(清水幸夫)


#
目次
#
SFU運用
#
編集後記
#
Home page

ISASニュース No.190 (無断転載不可)