No.190
1997.1


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 電気推進実験(EPEX)はMPDアークジェット( Magnetoplasmadynamic Arcjet )をスラスタシステムとして搭載し,軌道上で推進機能を確認する目的で実施された(図26)。

図26. 地上噴射試験の様子

MPDアークジェットは過去に何回かの宇宙実験が宇宙研電気推進グループによって世界の先陣を切って行われており,1980年の「たんせい4号」および1983年のスペースラブ1号でのSEPAC( Space Experiment with Particle Accelerators )といずれも成功裏に飛行実績を獲得してきた。今回は新機軸としてヒドラジンを推進剤に用いることの他に分割型陽極を採用したスラスタヘッドと電源構成が試験された。これはアーク放電を周方向に一様に分布させる新技術であり,推進性能と耐久性を改善した,従来からすれば画期的なMPDアークジェットである。原理的には1つの陰極と8つの陽極との間で約6kAのアーク放電によって推進剤をプラズマ状態にすると同時に,その磁場によって生ずるローレンツ力でプラズマを加速噴射する。軌道上ではSFUから日照時で最大430Wの電力供給を受け,約150マイクロ秒のパルス状放電を0.5〜1.8 Hzで繰り返す。推進剤はガス発生器によってガスに分解して一旦,貯気槽に保持され,パルス状のアーク放電に同期した形で高速電磁弁を開閉することにより,アーク放電部へと供給される。

 打上げ後の平成7年3月の実験では推進剤であるヒドラジンの温度・圧力状態,パルス状アーク放電の電源回路であるキャパシタバンクへの充電機能,その他テレメトリが正常であることが確認された。5月の実験では,ヒドラジンの供給動作,繰り返しプラズマ噴射動作が正常であることを確認する一方,SFUの姿勢に与える外乱,即ち発生推力をSFUのNGC系を用いて評価した。その結果,発生推力は地上試験で得られていた値と一致することが確認された。また,貯気槽の圧力ブローダウンにより算定される推進剤消費率からアーク放電時の理論比推力を求めたところ約1,100秒相当となり,これも地上試験の結果と一致した。また当初の計画では期待していなかったが,噴射プラズマの直近に位置するアンテナと電波干渉の試験をしたところ,テレメトリ同期に影響することが判明しプラズマの存在が確認された。6月〜7月の実験では与えられた実験時間を活用し,繰り返しプラズマ噴射を実施した。結果として 43,395 回の作動回数を達成した。そのうち,ミスファイアの割合は0.3%未満と良好な成績であった。7月〜8月の実験では残留ヒドラジンの宇宙空間への投棄に成功,推薬供給系の真空乾燥を実施し,スペースシャトルによるSFUの安全回収に備えた。

図27. SFUに搭載されたEPEX
 回収後の地上での点検ではEPEXは電気的に全て正常であり,推薬供給系のヒドラジン濃度も完全にゼロであることが確認された。SFUの重量制限もあってEPEXでは1kW対応でフルスペックの電源を搭載することはできなかったが,スラスタヘッドは1kW対応のものであり,電源系のコンポーネントも地上での耐久試験で用いたものと同一設計のものがシステムとして構成された。

 これらによってプラズマエンジンの一種として研究されてきたMPDアークジェットもスラスタシステムとして機能的に成立し得ることが確認された訳で,将来の1kW級あるいはそれを超えるハイパワーの電気推進システムが世界で要求される時代になった際の足掛りができたと言える。また,同種のプラズマエンジンである直流アークジェットに対しても,MPDアークジェットが宇宙で4万回を上回る再起動に成功したことは,信頼性の点から見て好影響を及ぼすものと考えられる。

(都木恭一郎,清水幸夫)


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