No.189
1996.12

ISASニュース 1996.12 No.189

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還暦に想う

前山昭子

 この8月に還暦を迎え,30余年間の勤務生活を感無量で思い返している昨今です。若い頃,30歳以上の自分の姿をどうしても想像出来ない程に,何かと身体上の具合が順調でなかったためか,この思いはひとしお身にしみるものがあります。「あなたは,いかにも肺病を病んでいる人特有の表情をしている」とか,「こんなに重いものを持ったりして大丈夫ですか?」などと言われたことがかなり影響しているのでしょうか。こんな調子では長生きは出来ないかも知れないとひそかな不安感を抱きつつ過ごした少女時代が今にしてみれば懐かしくさえあります。

 航研時代・宇航研時代・そして改組後の宇科研時代の通算して30年余り,大病で病床に臥すことなく,今日まで無事でいられたことの言葉にならない感動のようなものが脳裏を掠めるのです。

 ところで,あの改組時のハ−ドな毎日を思い出すたびに,あの時,よく病気にならなかったということです。当時の某課長から「身体に気をつけなさい。病気になっては元も子もないのだから」と注意を受けた時に「大好きな図書の仕事で倒れるのでしたら本望ですから」と応え,「馬鹿なことをいうものではない」と叱られ,「風邪でもひいて休みなさい」という休暇の方法を教えて?いただきました。体重計は計る毎に減少を示し,何の苦労もなしに半年で8キロ減でした。

あとになって,あの頃のことを振り返り,思わずゾッとてしまう位,心身ともに倒れる寸前のところを夢中で過ごしていたのだと思いますが,倒れることなく無事に乗り切ったというホッとしたものは,今後も忘れることなく,感謝につながることでしょう。

 駒場時代の宇宙研図書室は,古い方々はご存じと思いますが,研究室や実験室をつぶして書庫にしたようなものですから,貴重な資料にとってもけっして良い環境とは言えませんでした。しかも,その書庫が蛸足的にあちらこちらの建物に散在していましたから,利用される方々にとっても,そこを職場とする私共にとっても不便極まりない状態でした。遠く離れた建物に鍵を持って自転車に乗り,雨の日も風の日もまた雪の日も走りまわって,自分の席に落ち着くことが少ない毎日が続きました。デスクワ−クは,当然,利用される方々のない時間帯(つまり夜間)になってしまいます。今だから言えることですが,宇宙航空研究所という知名度とあの頃の図書室の実態は,いつも反比例していて,他機関の図書館関係者の熱い視線やら関心の深さに遭遇しても胸を張って,「ご案内致しましょう」という積極的な態度がとれなかったことは,辛いものがありました。それゆえに,相模原キャンパスに予定された新しい図書室への夢は大きく,改組時と同様なハ−ドな日々が続いていましたが,健康について気にかけけることは致しませんでした。さまざまな希望が原動力となっていたのでしょう。移転後は,すべての点で順調であったと言えます。「毎日が楽しくて」という言葉が頭上を飛び交うような環境に身をおいて,貴重な資料達も「どうも有難う」とほほ笑んでくれそうな,(これが当然と考えておいでの方々にはなかなかわかりにくい)感無量の思いなのです。 他の大きな大学図書館を標準に考えると,いかにも小規模なこじんまりとした「図書室」の域を脱するわけにはいかず,収書計画・資料保存等の問題になると,必ずぶつかる「壁」があります。時代の勢いも人々の考え方も少しづつ変化がみられ,利用しやすい,よりよき図書室のためへの努力が実りつつあることも事実です。今後も,ニュ−メディア技術を最大限に活用させ,情報時代にふさわしいサ−ビス業務が充分に行えるように,図書職員の研修育成の強化と整備拡充の予算配分等へのより一層のご理解とご支援を期待しています。世界的に最先端を進もうとしている宇宙科学研究所の発展のためにも恥ずかしくない図書室であってほしいと願ってやみません。退職後も宇宙研図書室への熱い思いは決して変わらず,応援し続けたいと思います。どうもな長い間有難うございました。

(まえやま・あきこ)


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