No.184
1996.7

ISASニュース 1996.7 No.184

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再びモスクワへ

向 井 利 典 

 「なんだ,暑いじゃないか」6月3日夕方,空港に降り立って同行の前沢さん(名大理学部)に話しかけたときの第一声である。3日前の e-mail では,昼間は20度程度、夜は10度以下と書いてあったのだが,夕方というのに日本を出たときの昼間と同じぐらいではないか。モスクワは今度で二回目。最初は去年の11月中旬,あのときは耳まで被る帽子なしでは外出できないほど寒かった。それに比べればはるかに快適。

 訪問先のロシア宇宙科学研究所(IKI)は市の南はずれにある。更に南に下がった郊外には高層アパートが立ち並ぶベッドタウンがある。モスクワの人口は約1,100万,そのほとんどが郊外のベッドタウンに住んでいて地下鉄で通勤する。前回のホテルはそのベッドタウンの中にあって閑静であったが,今回のホテルは逆に研究所の北の方にあって,市の中心近くのため車の騒音がうるさい。しかし,うるさいのは眠るまでの話で,一杯飲めば関係ない。今回の方が一応レストランも二つあり,食事の心配はない。やはり,食べ物は重要な選択肢である。また,近くにレーニン像も建っており,(今回はできなかったが)次回の機会には周りを散策する時間をもちたい。

前回はすべて送迎つきであったが,今回はフランスCNES のSauvaud (イ ンターボール衛星搭載の電子観測器の責任者)が一緒なので,自分達だけで地下鉄を利用することにした。その方が街の雰囲気もわかるし,人々の動きがよく見える。彼は今回で20回目ぐらいというので,安心していたが,それでも最初は戸惑った。地下鉄の駅が二つのラインの交差している所にあり,地下ホ ームの構造がちょっと複雑だったためである。こちらは若い頃にロシア語に挑 戦してみたことはあったのだが,駅の名前すらすぐには目に入ってこない。な にしろ6番目の駅ということだけが頼りであって,方向を間違えなかったのは 同行者のお陰といわねばならない。

 モスクワの地下鉄は核戦争のときのシェルターになるように作られたらしく, 異様に深い。地下プラットフォームまでのエスカレータの速さは日本の倍ぐらいで,すっと飛び乗る感じなのだが,前回は足早に歩いてきてそのままの速でエスカレータの上を歩いていく人が多かった。ロシア人は足早だなと思ったものであったが,あれはやはり寒さのためであったようである。暖かくなってきたためか,今回そういう光景はあまり目にしない。地下道の決まった場所にはアコーディオン弾きがいるが,なぜか顔ぶれが毎日変わる。横の鞄の中のル ーブルの量はいつも同じぐらいなのだが。

 1年も経たないうちになぜ二度もモスクワに行くことになったか。話は遡るが,去年の8月にインターボール衛星が打ち上げられた。打ち上げはそれまで何度も延期されており,最近のロシア情勢からして予定通りにいくとは誰も信じていなかったが,本当に上がったのである。約700H北から南方に打ち上げられた衛星がモスクワ上空を通過するのがIKIの衛星観測オペレーション室の窓から見えたという。これでGEOTAIL衛星とその前年に打ち上げられていた米国のWIND衛星を併せて,ISTP(国際太陽地球系物理学)計画の衛星群 のちの3個がようやく揃うことになったのである。折りよく9月,IACG 会議が札幌で開かれ,第一回の国際共同観測キャンペーンの具体的な日程が組ま れた。

 キャンペーンが始まって1ヵ月ほど経た昨年の11月中旬,初めてモスクワのIKIを訪れた。それまではIACGなどの国際会議で顔を合わす Galeev(IKI所長), Zelenyi(インターボール計画 Project Scientist;IKI宇宙空間物理部長)等,ごく限られた人しか知らなかったが,共同研究をやるにはまず観測担当の研究者達と顔見知りになり相手の考えを理解することが重要である。とにかく,それぞれの初期観測データを見せてもらいながら多くの人と議論することができ,とりあえずは当初の目的を果たすことはできた。とはいえ,この時の観測データはほとんど生のまま,同じ衛星に搭載している観測装置の結果の相互比較も未だという状況で,まして他の衛星との具体的な共同研究を始められる状態ではなかった。寒い中をクレムリンに案内してくれた大学院生が,6月初めは花が咲いてカラフルだと言ってくれたので,二回目の訪問をそのように設定したのであった。

 今回はインターボールのデータ処理も進んでいた。次々と出てくるおもしろい結果に興奮して活発な Science の議論が丸々4日間,帰国便の出発3時間前まで続けられた。おかげでもう一つの目的であったクレムリンの再訪はできなかったが,「ロシアにとって初めてのCDAW(Correlative Data Analysis Workshop)」はISTPにとって重要なステップとなるだろう。

(むかい ・としふみ)


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