宇宙通信工学 (6)
衛星通信
高野 忠
「衛星通信」は科学衛星やロケットのための宇宙通信と似た語感がありますが,地上の通信の一部であるという大きな差異があります。すなわち,情報の発信・受信は共に地上にあり,基本的に通信網に組み込まれます。そこでは衛星は,単なる中継器になります。
衛星通信システムは,衛星部分と地上部分で構成されます。衛星部分は,科学衛星に比べ高利得なパラボラアンテナ,多数のトランスポンダ,大電力の太陽電池等が特徴的です。その他衛星運用のためのHK,TT&Cシステムを有します。前述の通信系を衛星のミッションとすれば,これらはミッションを支えるものです。
地上部分は,大形パラボラアンテナ,高性能な低雑音増幅器(LNA)や大電力増幅器(HPA),あるいは変復調器がある点,臼田局と同じです。違うのは,多数の電波を使うためのマイクロ波フィルタ(分波器)や,情報源単位の回線を1電波上の情報に積み上げる装置(多重化装置と言い,離れた場所にあることも多い),等があることです。
衛星による信号伝送を,他の地上形式の伝送法と比較すると,次のようになります。
(1)通信点間にケーブル,中継器等の設備を必要としない。
(2)広域を一括して,サービスできる。
(3)地上での災害に対し強い。これは先の阪神大震災でも,立証された。
(4)地上のマイクロ波中継に比べると,フェージングが無い。それでも光ファイバよりも,安定性が悪い。
(5)長距離を伝送する方法である(国内衛星通信では,隣町でも片道4万Hを往復して届くことになる)。そのため受信電波は,極めて微弱になってしまい,高級な送受信器が必要になる。
(6)同じ理由で,こちらの声が相手に届くために,0.3秒を要する。会話だと相手の応答を聞けるのが,0.6秒後となる。またいわゆるエコーがあると,非常に耳障りとなる。
この衛星通信の特徴を最大限発揮できるのは,光ファイバ等の大容量伝送路が無い所,あるいは遅延が問題にならない情報を送る場合です。従って国際通信一般や,国内通信におけるデータや映像信号の伝送用,飛行機や船の通信用,非常災害用等に多く使われています 。
衛星を使った国際通信システムの一例が,インテルサットです。図は最新型の通信衛星を示します。直径2.4Eのパラボラをはじめ計6台の大形アンテナと,端から端まで22Eの太陽電池が目につきますが,内部には36台のトランスポンダが入っています。CとKu帯の周波数を用いて,電話18,000本とテレビ信号3本を送ることができます。インテルサットはこの衛星を含め静止軌道上に20基配置し,世界ネットワークを構成しています。これに対する地上局は,1電波でできるだけ大量データを送るためには,高性能(大規模)にならざるを得ません。しかし低価格と利便性をうたい文句に,地上局を小型にする動きが顕著で,その典型がVSAT(Very Small Aperture Terminal)です。