No.027
1983.6

我国の電離層ロケット観測の成果  
ISASニュース 1983.6 No.027

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- No.027 目次
- 国際地球観測年(IGY)記念号にあたって
+ 我国での宇宙観測のはじまり
- IGYの頃
- ユーゴスラビアにロケット推進薬製造技術のうりこみ(1963年)
- IGYと初期のロケット研究
+ 我国の電離層ロケット観測の成果
- 大気光および大気光学観測
- 電磁圏観測
- お知らせ
- 編集後記

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平 尾 邦 雄  



 国際地球観測年(IGY)を契機としてはじまった我国の観測ロケットは1950年には100kmの壁を破って約200kmに達するようになった。それ迄3年間にわたり電離層プラズマの測定法を開発しつつあった電波研究所と電気通信研究所の協力グループは早速このK-8型ロケットを用いて観測にのり出した。先ず光電子効果を防ぐための網状プローブを用いて正イオン密度の観測を行い同年9月には昼夜のイオン密度観測を行い当時としては世界ではじめて信頼しうるデータを得た。ついで1961年には所謂レゾナンスプローブが搭載され電子密度および電子温度をはかることに成功した。特に電子温度については主として米国においてラングミュアプローブ法で測定されていたが,そのデータをくつがえすE層領域の電子温度分布を発表し,これも初の信頼すべきデータを得,1962年以後行われた米国における日米共同ロケット観測の端緒をひらくこととなった。1964年には京都大学グループによって掃引型のインピーダンスプローブが開発されてきわめて精度のたかい電子密度の測定が可能となり,前2者と共に電離層の最も基本的な量である正イオン密度,電子密度,電子温度の測定法が確立され,後になって標準電離層の決定の資料として国際的に大きな役割をはたした。

K-8-3号機による正イオン密度分布

1965年より1967年にわたりフラックスゲート型,ルビジウム更にセシウムの磁力計が東北大学(後に東海大学)や京都大学のグループにより開発され世界的にも資料の少なかった中緯度の地磁気日変化電流系の観測が行われた。又同じ頃京都大学のグループによる電離層内の雑音電波の観測がはじめられ後の磁気圏における波動現象の研究へとすすみ出す端緒をひらいた。一方向じグループは地上の低周波送信源をつかってのD層領域の電子密度の観測もはじめた。これから発展して最近ではもっとも複雑なFull waveの解析による下部電離層の非常にうすい電子密度測定法の確立へと発展してきている。1972年からは宇宙研グループによって電離層内の光電子観測が行われるようになり,今迄はっきりと指摘されていなかった304Åの太陽紫外線による酸素原子および窒素分子の電離の結果生じる一次光電子を測定することができた。

K-8-5号機による電子温度分布(中心の実線)

1971年9月に軌道にのった第号科学衛星「しんせい」の電子密度プローブではその後「たいよう」でますますはっきりした南大西洋電離層異常のデータをとらえ現在に至るまで我国および外国,特にインターコスモス衛星によって観測がつづけられている。1973年頃より電波研究所グループによって電離層内の正イオン質量分析もはじめられた。1978年にあげられた第号科学衛星「きょっこう」においてプラズマトラフ近傍において極めて興味あるデータを得ることができた。1970年頃から宇宙研グループによってラングミュアプローブの表面汚れに関する基礎的な研究が行われ,その結果表面処理をした上ガラスに真空封じされ上空で露出される型のプローブが開発され,これによって正確な電子密度および極めてエネルギーの低い領域の電子エネルギースペクトルを測定することができるようになった。又同時に電子温度計自体も洗練されたものとなり一つの標準的なプローブともなり国際的にも評価されるものとなった。

 このようにして測定器については非常にすぐれたものがそろうようになり観測ロケット科学衛星により計画的観測がなされるようになった。前にのべた南大西洋電離層異常についてはその後科学衛星「ひのとり」でもしらべられ又来年打上げられる科学衛星EXOS-C(第号科学衛星「おおぞら」1984年2月14日打上げ)の主要ミッションの一つともなっている。又これらの衛星観測からプラズマバブルに関する興味あるデータが得られている。

K-8型ロケット搭載の電子密度測定プローブ 

 観測ロケットを用いては光電子共役点効果の研究,地磁気日変化電流系の中心域における高電子温度層の研究,内之浦および南極昭和基地におけるロケットデータを用いた下部電離層の熱収支の研究等がつづけられている。

 このようにしてIGYによってはじめられた観測ロケットおよび科学衛星による電離層研究はその期間を通して行われたすぐれた観測器の開発に支えられて現在その収穫期にあるといえよう。

(ひらお・くにお 宇宙科学研究所) 


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